(社説)ICBM発射 秩序混迷に乗じた暴挙
辛うじてつながっていた米国との関係を壊し、自らを苦境に追いやる愚挙というほかない。
北朝鮮が、新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射した。「火星17」と称し、過去の発射に比べ、高度、飛距離とも上回っており、米国全土を射程に収める可能性がある。
ミサイルの一部は日本の排他的経済水域に落下した。航空機や船舶の安全を脅かす行為を断じて容認できない。発射をやめるよう厳重に求める。
国連安保理決議にも明確に違反している。金正恩(キムジョンウン)総書記は4年前、初の米朝首脳会談を前に、米国の直接の脅威となる核実験とICBMの発射を自制すると宣言した。この約束を自ら破ったことになる。
当時の米朝首脳は北朝鮮の永続的な安全保障も盛り込んだ共同声明を出したが、それすら揺るがしかねない局面だ。
北朝鮮は、長期計画に基づく兵器開発を進めると公言してきた。一方でこの時期の発射の判断には、国際社会が苦慮するロシアのウクライナ侵略が影響しているだろう。
ウクライナは91年に独立したあと、旧ソ連から引き継いだ核兵器をすべて放棄して、主権と領土保全の保障を得た。
その国が無残に攻撃される現状を、北朝鮮は注視しているはずだ。核開発をやめれば安全は保たれないとの誤った認識を深めかねない。その意味でも国際社会はウクライナ問題の解決を急ぐ必要がある。
国連安保理がロシアに有効な手立てを打てないことも、北朝鮮には好都合だろう。
北朝鮮外務省は、ウクライナ侵略は「米国と西側の覇権主義政策に根源がある」とし、国連総会でのロシア非難決議に反対した。今回の発射についても安保理は、米欧と中国・ロシアとの対立が続き、一致した対応は困難とみられる。
北朝鮮は、中ロの側に立って「新冷戦」のような構造が定着することを狙っているだろう。
だが、ロシアの暴走で秩序が揺れるなか、北朝鮮問題がさらなる波乱要因として悪化することは中国も望むまい。平壌の最大の後ろ盾として、中国が抑制する役割を担うべきだ。
米バイデン政権は、対話で段階的な非核化を目指す「現実的なアプローチ」を掲げている。ただこれまで実質的には、朝鮮半島問題に外交努力を注ぐ姿勢は乏しかった。ウクライナ侵攻への対応に取り組む一方、平壌への説得も強めてはどうか。
ICBMはもとより、短・中距離ミサイルの脅威にさらされる日本や韓国も、米国との連携を確認しあい、国際社会に広範な協力を呼びかけるべきだ。
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- 【視点】
このような技術開発のニュースを見て思うのが、技術者たちの思い。どのような気持ちで開発しているのだろうか。 第二次世界大戦でドイツからアメリカに渡ったロケット技術開発研究者のフォンブラウン。ロケットとミサイルはほぼ同じ技術だという。パワード
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