(社説)強制不妊判決 真の救済に国は動け

社説

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 違憲の法律をつくり、それに基づいて個人から生殖機能を奪うという人道にもとる行為をした国を、時の経過を理由に免責することはできない――。

 旧優生保護法下の強制不妊手術をめぐる訴訟で東京高裁はそう述べ、国に賠償を命じた。

 先月の大阪高裁に続く重い判断である。政府・国会が座視することはもはや許されない。真の謝罪と救済に向けて、速やかに検討を始める必要がある。

 東京高裁は大阪高裁と同じく、旧法は個人の尊厳や法の下の平等を定めた憲法に反すると判断。「賠償請求権はすでに消滅した」とする国側の主張を、「著しく正義・公平の理念に反する」として退けた。

 国側がよりどころにしたのは「除斥期間」の考えだ。事情によっては中断や停止がある「時効」と違って、不法行為の時から20年が経過すれば画一的に請求権はなくなるというもので、さまざまな被害の回復を図るうえで壁になってきた。

 これに対し判決は、強制不妊に関する「特段の事情」をいくつも挙げ、除斥期間をそのまま適用するべきではないとした。

 旧法の廃止が96年まで遅れたうえ、国はその違憲性に明確に言及しなかった。被害の実態を調査せず、手術を受けた人に権利侵害があったことを知らせることもしなかった。その後も国連の機関や日本弁護士連合会から勧告や提言を受けながら、適切な対応を怠った……。

 判決理由に並ぶ「特段の事情」は、この問題に対する国の冷淡さと、それを許した社会の無関心ぶりを浮き彫りにする。

 そのうえで判決は、被害者が不法行為があったと客観的に認識できるようになったのは、ようやく国会が動いて一時金支給法が制定・施行された19年4月だと指摘。その後5年以内であれば、裁判で賠償を求めることができると結論づけた。

 大阪高裁判決からさらに踏み込み、すべての被害者に救済範囲を広げる判断だ。事態の重大さに鑑み、理屈が立つぎりぎりまで手を差し伸べようとする強い姿勢がうかがえる。

 ボールは政府と国会に投げ返された。

 裁判所が命じた賠償額は、弁護士費用を除いて大阪高裁が1300万円(配偶者は200万円)、東京高裁が1500万円だ。一時金支給法の320万円を大きく上回り、国の措置が十分ではないことを示す。

 そもそも支給法は、旧法は違憲だという前提で作られておらず、反省やおわびの文字はあっても、責任の所在がはっきりしない欠陥をもつ。二つの高裁判決を受けて、救済のあり方を根底から見直さねばならない。

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