(社説)対ロシア行動 国際社会の意思 実践を

社説

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 核兵器による威嚇に加え、原子力発電所の安全も脅かす。常軌を逸した暴挙を一刻も早く止めねばならない。

 ウクライナ南東部にある欧州最大級の原発の至近でロシア軍が攻撃し、火災が発生した。その後、軍は原発を制圧したとされるが、一歩間違えば破滅的な惨事になっていた。

 ロシア軍は、80年代に事故を起こしたチェルノブイリ原発も占拠している。原子力施設を巻き込む軍事行動に対し、国際原子力機関が即時停止を求めたばかりだった。深刻な事態だ。

 市街戦が激化するにつれ、市民の被害が拡大している。

 国外への避難民は100万人を超えた。民間人の死者は2千人を上回り、双方の戦死も増えている。国連人権高等弁務官によると、数千万人の命が危険にさらされているという。

 第2次大戦後の欧州で最大の危機である。前世紀の戦禍を教訓にして築かれた国連を中心とする国際枠組みを総動員して、各国は平和と安全を取り戻し、人道支援を急ぐべきだ。

 国連総会は今週、ロシアを非難し、即時撤退を求める決議を採択した。加盟193カ国のうち141カ国が賛成した。安保理決議のような法的拘束力はなくとも、国際社会の確かな意思を明示した点で意義深い。

 国際刑事裁判所は、戦争犯罪人道に対する罪の捜査を始める。10年近いウクライナの紛争が対象で、ロシア側が主張する親ロ派住民の被害も公正に調べれば、調停に資するだろう。

 国連総会で、太平洋やアフリカ、カリブなどの国が力説したのは、国連憲章を礎とする秩序の大切さだ。大国の横暴が幅を利かせる現状を憂え、各国の主権や領土保全を保障したルールとモラルの回復を訴えた。

 安保理常任理事国ロシアが憲章を破った今、最大の重責を担うのは、同じ常任理事国の米国と中国、英仏だ。中国は総会の採決で棄権したとはいえ、国連中心を唱える大国として解決に動かねばならない。

 プーチン氏がこの侵攻で意図する最大の敵は、米国である。米ロ間のトップ級会談は開戦により途絶えたが、改めて事態の収拾を探る対話の再開を急ぐべきではないか。

 マクロン仏大統領との電話協議で、プーチン氏は作戦を完遂すると強調した。ウクライナ政府との停戦協議は続いているが、米欧の踏み込んだ関与なしに打開は望めそうにない。

 日本とドイツも足並みをそろえた経済制裁と国際世論の結集でロシアに圧力をかける。同時に市民の保護と交渉を促す外交努力を強める。その両輪を回していくときだ。

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