(社説)生殖補助医療 長年の課題解決に動け

社説

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 長年先送りされてきたテーマに、本腰を入れて取り組むきっかけとしたい。

 生殖補助医療など生命倫理が問われる様々な課題について、日本産科婦人科学会が先ごろ、全体を管理・運営する「公的機関」の設置を提案した。

 日本はこの分野の法整備が遅れ、代わりに同学会の見解や指針がその役割を果たしてきた。しかし、さらなる技術の進歩やそれを利用したビジネスの拡大が想定され、もはや学会で対処できる域を越えている。政府は提案を真摯(しんし)に受け止め、速やかに検討を始めるべきだ。

 提案書は新設する公的機関の機能として、(1)生殖・周産期医療が進む方向性に関する継続的な議論(2)医師資格や医療施設の認定、実態の調査、個人情報の管理、相談受け付けなどの実務――の二つを挙げている。

 こうした組織の必要性は、厚生労働省の審議会の部会が03年の報告書で指摘したが、事実上放置されてきた。20年末に、生殖補助医療で生まれた子の親子関係を定める法律が議員立法で成立した際も、2年を目途に検討して「必要な措置」を講じると付則に明記された。だが表立った動きはない。政府・国会の怠慢は明らかだ。

 社説は問題の重要性を繰り返し指摘し、2年前にも、病気や障害のある人を排除し「命の選別」につながりかねない医療をどこまで許容するか、独立性の高い組織をつくって幅広い視点から検討するよう求めた。今回の学会の提案とも重なる。

 現実は手をこまぬいていられない段階まで来ている。

 例えば匿名第三者の精子を使う人工授精をめぐっては、子が遺伝上の親に関する情報にアクセスする「出自を知る権利」の扱いがいまだ定まっていない。制度の必要性について認識が深まり、提供者の確保が難しくなる一方、ネットを介した精子の私的取引でのトラブルが報告される。人種や学歴などを確認して選べる海外の精子バンクの利用者もいると伝えられる。

 また、妊婦の血液から胎児の障害の有無を調べる出生前検査では、相談や支援の態勢が十分といえない学会の認定外施設の利用が広がり、歯止めがかからない状態になっている。

 性と生殖に関わる自己決定権の意識が高まり、性的少数者への理解も進んだ。多様な生き方を保証し、一人ひとりの人権を守る観点からも、解決すべき問題は山積している。

 これらに一定の答えを出し、かつそこで歩みを止めず、科学の進展や世界の動向も踏まえて検証と議論を続ける。社会的合意を形成し、より良いものにする努力を惜しんではならない。

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