(社説)温暖化の影響 自分の身に迫る問題だ

社説

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 地球温暖化の被害は、いかに阻止するかではなく、どれだけ減らせるかという段階にきた。

 すでに被害は広範囲に及んでおり、このままでは軽減策が限界を迎えると警告する報告書を、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が公表した。それぞれの人が自分の身にも迫る問題だと受け止め、行動しなければならない。

 IPCCは今秋公表予定の第6次統合報告書に向け、作業を進めている。昨夏の第1作業部会報告書は、温暖化が人間の影響であることを「疑う余地はない」と断言。産業革命前からの気温上昇が40年までに1・5度に達する見通しを示した。

 今回は第2作業部会が、気候変動の影響や適応策を分析した。気候変動に関連する研究論文を270人の専門家が精査してまとめた最新の科学的成果の結集だ。すでに生態系や食料生産、健康、インフラなどに大きな影響が出ている。気温上昇が1・5度程度ならば損害を抑えられるが、全てをなくすことはできないとしている。

 気候変動が「自然や人間システムに影響を起こしている」と指摘した前回2014年の報告書と比べ、急速に深刻化した。影響は、リスクが高く、生活インフラや食料の調達基盤が弱い地域から顕在化する。すでに世界で33億~36億人が被害を受けやすい状況にあり、今後10年間が決定的に重要だという。

 それなのに、政策に関与する指導者は自分が責任ある地位にいる間や生きている間は、破局に至らないと考えて抜本的な対策を先送りしてはいまいか。

 「脱炭素」のスローガンは掲げても、不退転の決意で取り組む危機感は感じられない。解決策である再生可能エネルギーの拡大の加速が急務だ。目先の電力需給を理由にして、大量の二酸化炭素を排出する石炭火力発電や、事故が起きれば影響が甚大な原発に頼るべきではない。

 昨秋、英国で開かれた国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)では、気温上昇を1・5度に抑える努力の追求と、石炭火力の段階的削減に合意した。対策が遅れる途上国に配慮した最低限の合意であり、日本がそれを都合良く解釈し、石炭火力の延命を図ることなどは慎まねばならない。それでは先進国としての責任を果たせず、ツケを回された将来の国民からの非難もまぬがれない。

 紛争など世界の情勢でエネルギー事情は変化する。しかし、目の前の事象だけに追われて大局を見失ってはならない。もちろん、負担に耐えられない人たちへの配慮は求められるが、一人ひとりが生活を改める覚悟も問われている。

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