(社説)ウクライナ侵攻 撤兵求める国際圧力を
爆音と銃声におびえる人々の悲痛な叫びが連日伝えられる。ロシア軍は隣国ウクライナの首都キエフに迫っており、市街戦が激化する恐れがある。さらなる流血の拡大が心配だ。
プーチン大統領は、ウクライナの兵士に政権転覆の蜂起を呼びかけた。クーデターと見せかけた軍事工作を狙っているのかもしれない。
首都制圧の動きとあわせ、この戦争は、隣国の政権を親ロシア派にすげ替えるのが真の狙いである実態がみえてきた。言語道断の無法ぶりである。
ロシアはウクライナ側が武器を置けば協議に応じるというが、到底信用できない。話し合う気があるなら、まず攻撃をやめ、軍を引くべきだ。
この侵略は国際秩序を揺るがす重大事件であるにもかかわらず、国連の安全保障理事会は25日、ロシアを非難して撤兵を求める決議案を否決した。
日本を含む80カ国以上が共同で提案したが、ロシア1国だけの反対で葬られた。安保理の常任理事国の一つであるロシアは拒否権を持つからだ。
近年のシリア内戦や北朝鮮問題などでも、安保理は機能不全を続けてきた。国連創設以来の「大国一致」の原則が、足かせになっている。
今回の採決では、さらに嘆くべきことに、中国とインド、アラブ首長国連邦が棄権した。国際社会が結束して国際法違反に立ち向かう機会を逸した。
中印ともロシアとの関係が深い。政治的な配慮のようだが、近視眼的な外交だ。国々が国連憲章のもとで平和と安全を守る集団安全保障体制が崩れれば、グローバル経済の時代、どんな大国でも繁栄の未来はない。
中国の習近平(シーチンピン)国家主席は同じ25日にプーチン氏との電話協議で、「国連を核心とする国際体系と国際法を基礎とする秩序を断固守る」と述べたという。ならばなぜ、違法行為への反対を明確にできないのか。
安保理は滞っても、国連加盟国や市民社会ではさらなる動きが続いている。決議案を否決したロシアを権力の乱用と非難する共同声明を50カ国が出した。ロシア国内を含む世界各地で反戦デモが広がっている。
先日の安保理でケニアの大使が語った言葉は印象的だ。アフリカの国境は植民地時代に線引きされたが、それでも国連のルールに従うのは「平和に作り上げられた、より偉大な何かが欲しかったからです」。
世界が数々の過ちを経て打ち立てた主権平等と平和共存の理念に立ち返る時だ。国連中心を掲げる日本政府は、国連総会なども利用して国際圧力の結集に努めてもらいたい。
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