(社説)アカハラ 人権侵し研究を阻む罪

社説

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 「アカハラ」が深刻な問題になっている。

 大学などで優位な立場にある教授らが学生や研究者に対し、教育・研究をめぐって不利益や精神的苦痛を与えるアカデミック・ハラスメントのことだ。

 セクハラも含めて、被害者の心身を傷つける卑劣で許しがたい行為である。有為な人材の喪失や研究不正につながりかねず、ひいては国がめざす科学技術の発展、文化の振興を足元から揺さぶる。

 アカハラが横行する背景には研究者の世界の特質もある。

 各研究室は独立した自営業者のようなもので、外部の干渉や統制を嫌う。学問の自由を守るために自主は尊重されるべきだが、内側のことが周囲から見えなくなる恐れがつきまとう。

 研究室を仕切る教授らは、活動資金の確保や配分、研究者のポストの差配に影響力を持ち、卒業や学位の取得も左右する。このため被害にあったり見聞きしたりしても、声を上げにくい構造になっている。

 加えて近年の「選択と集中」政策で、特に理系では重点分野に配られる競争的資金への依存が高まり、学外からの資金の重要度も増した。獲得し続けるには短期間で結果を出すことが求められる。また、一時的な資金で雇用される、身分が不安定な任期付き研究者も増えた。

 こうした事情が、アカハラを受けても泣き寝入りする状況に拍車をかけてきた。

 学生や若手・女性研究者が傷つき、将来を悲観して大学を去れば、学術界は貴重な担い手を失う。成果を急ぐ上司の圧力は、データや資料の改ざんなどを招く懸念もある。

 ほとんどの大学はアカハラ根絶に取り組み、相談窓口も持つが、その機能を疑問視する声は少なくない。自主を損なわぬよう留意しつつ、研究室の透明性を高め、予防策の徹底と発生時の適切な対応、再発防止に努める必要がある。学長らトップが組織として正面から向き合う姿勢を示すことが大切だ。

 文部科学省はハラスメント調査を隔年で実施している。しかし窓口の設置状況などのまとめにとどまり、被害件数や具体的な内容の把握にまで踏み込めていない。関係者のプライバシーに配慮したうえで事例を共有することも検討すべきだ。

 多くの企業や団体では、専門の相談員を男女で複数置いたり、外部窓口を法律事務所などに設けたりすることが、「標準装備」になっている。

 政府や各大学はアカハラの弊害を真摯(しんし)に受け止め、こうした要員の人件費などもしっかり確保して、事態の改善に本腰を入れなければならない。

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