(社説)コロナ首相会見 国民の不安に応えたか

社説

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 第6波の「出口」に言及したものの、最多を更新した死者数の動向などは取り上げなかった。前向きな印象を与える言葉だけでなく、厳しい現実を見据えた発信でなければ、国民の不安は拭えまい。

 岸田首相がおととい、オミクロン株によって新型コロナの感染者が急増した今回の局面で初めて、記者会見を開いた。全国的に感染拡大のペースが落ち着き始めており、「出口に向かって徐々に歩み始めるべきだ」として、沖縄など5県の「まん延防止等重点措置」の解除と、水際対策の緩和を表明した。

 ビジネス目的や留学生、技能実習生など、観光以外の外国人の新規入国を認め、1日あたりの入国者の上限を、3500人から5千人に広げる。与党や経済界、国際社会から突き上げられての決定とはいえ、妥当な判断であり、入国者枠の着実な拡大につなげてほしい。

 一方で、重点措置の解除は5県にとどまり、17道府県は延長が決まった。首相は昨年11月に決めたコロナ対策の「全体像」により、重症病床には十分な余力があり、必要な医療を提供できていると胸を張ったが、入院先が見つからなかったり、自宅療養中に亡くなったりする人も相次いでいる。通常医療、特に救急医療への負担も深刻だ。

 現実とのギャップを感じざるを得ない。そもそも全体像は、デルタ株を踏まえた計画であり、オミクロン株の特性に合わせたものではない。

 首相は3回目ワクチン接種の遅れについて問われた際、英国やイスラエルなど先行した国より日本の感染者数は格段に少ないと、わざわざ付け加えた。自治体や職域接種を担う企業に加速化を強く求めるのなら、現状への責任を厳しく受け止める姿勢こそ示すべきではないか。

 オミクロン株はデルタ株に比べ、感染拡大の速度が非常に速い一方、入院や重症化のリスクは低いとされ、死者も高齢者が中心だ。感染への不安を強く感じる人もいれば、楽観的にみている人もいよう。さまざまな国民に対し、政府の施策の狙いを的確に伝え、協力を得るには、国民の心に響く政治指導者の言葉が極めて重要だ。

 その点、メディアを通じた首相の発信がこの間、立ち話で質問に応じるだけだったのは大いに疑問だ。緊急事態宣言の時だけ会見をした、前任の安倍、菅両氏にならったのだろうが、「丁寧な説明」という首相のモットーにもとるのではないか。

 首相は会見で、悪化の兆しがあれば即座に対応を見直すとも語った。その際も重要なのは、国民に対する丁寧な発信であることを忘れてはならない。

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