(社説)日米首脳会談 対中、共存への戦略を

社説

[PR]

 中国やロシアが既存の秩序に力で挑み、強権政治が各地ではびこる。世界が混沌(こんとん)を深めるなか、自由、民主主義、人権といった普遍的価値を共有する日米が、新たな秩序をどう構想し、国際協調を立て直すか。大局的な議論の出発点とすべきだ。

 岸田首相とバイデン米大統領の初の首脳会談がオンライン形式で開かれた。今年前半にバイデン氏を招いて日本で日米豪印4カ国(クアッド)の首脳会議を開くことや、両国の外務・経済担当閣僚による「経済版2プラス2」を立ち上げることなどで合意した。

 念頭にあるのは、軍事的、経済的に台頭する中国への対抗だ。両首脳は「台湾海峡の平和と安定の重要性」を強調し、香港や新疆ウイグル自治区の人権状況への「深刻な懸念」を共有した。岸田首相は日本の防衛力を「抜本的に強化する決意」を表明し、敵基地攻撃能力の保有も選択肢のひとつとして検討していることを伝えた。

 中国の一方的な現状変更の試みや深刻な人権侵害に反対するのは当然だが、力に力で対峙(たいじ)するだけでは、地域を不安定化させかねない。軍事的な衝突は決して起こさせないことを目標に、対話や信頼醸成の取り組みを織り交ぜながら、中国との共存を探る総合的な戦略を練ることこそ両国の責務だ。

 中国への強硬姿勢は、根深い党派対立が続く米国内で数少ない一致点のひとつとされる。中国の隣国として経済的にも歴史的にもつながりの深い日本は、米国の事情や思惑に引きずられることなく、建設的な関与を導く役割を果たさねばならない。

 両首脳は北朝鮮の核・ミサイル開発やウクライナ情勢への連携で一致。新型コロナの水際対策の穴となった在日米軍基地をめぐっては、感染拡大防止への協力を確認した。しかし、米軍関係者を日本の検疫の対象外とする日米地位協定を正面から俎上(そじょう)に載せない限り、地域住民らの不安は拭(ぬぐ)えまい。

 「核兵器のない世界」に向けてともに取り組むことも確認された。ただ、核兵器禁止条約をめぐるやりとりはなかったという。両政府が会談前に発表した核不拡散条約NPT)に関する共同声明も、世界の政治指導者に広島、長崎訪問を呼びかける一方、核禁条約には触れていない。核保有国同士の戦争回避や核軍縮・不拡散について、実効性のある措置が打ち出されなければ、説得力は持ち得ない。

 日米同盟は日本の外交・安保政策の基軸にとどまらず、アジア太平洋地域、そして世界の安定と繁栄のための「公共財」とされる。ならば、その名にふさわしい役割が求められる。

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

【お得なキャンペーン中】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら