(社説)DNA抹消判決 立法化の議論を急げ

社説

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 無罪が確定した男性が、警察庁に保管されている自分のDNA型、指紋、顔写真のデータの抹消を求めた裁判で、名古屋地裁が訴えを認めた。

 市民が当然抱く疑問や不安に正面から応えた判決だ。

 社説は以前から、こうした細心の注意を要する個人情報の取り扱いは、国会で審議のうえ、法律で厳格に定めるべきだと主張してきた。判決を機に、国は法制化の議論を急ぐべきだ。

 警察庁のデータベースには20年末現在で、容疑者のDNA型が141万件、顔写真が1170万件、指紋が1135万件、登録されている。いずれも逮捕の際などに採取されたものだ。これらを将来にわたって保管し利用することの是非は、かねて議論になっていた。

 地裁は、DNAと指紋について、みだりに取得・利用されない自由が、個人の尊重を定めた憲法13条で保障されているとの判断を示した。データベース化が犯罪捜査に役立つことは認めつつ、自由主義を掲げる諸国では採取や管理に関する立法措置を講じており、参考になると指摘。顔写真も同様とした。

 日本は国家公安委員会の規則があるだけで、抹消については「容疑者が死亡したとき」「保管する必要がなくなったとき」としか書かれていない。判決が「甚だあいまい」「脆弱(ぜいじゃく)な規定にとどまる」と難じたのは当然だ。捜査当局の判断次第というのは明らかにおかしい。

 そのうえで判決は、無罪が確定した場合、「余罪の存在や再犯のおそれ」など具体的な事情が示されなければ、保管の必要性はなくなったと考えるべきだとした。今後議論していくうえで、一つの出発点になる。

 欧米では90年代からDNA型データベースに関する法整備が進んだ。たとえば、カナダは保管対象を殺人や性的暴行など指定した犯罪に限り、ドイツも、要件を細かく定めたうえで、不起訴や無罪となった場合はデータを破棄することや、保管を続けるか10年ごとに審査することなどを定めている。

 抹消を求める裁判はこれまでもいくつかあったが、審理した裁判所は、個人情報保護に関する別の法律にデータの乱用禁止規定があることなどを理由に、請求を簡単に退けてきた。憲法の精神を踏まえ、国際的な潮流にも目配りした今回の判決にこそ、説得力がある。

 事件によっては捜査協力者のDNAも採取される。当局はデータベースには登録しないというが、懸念をもつ人は少なくない。捜査の都合に傾きすぎたはかりを是正し、人権の観点からチェックできるようにするためにも、法制化は必須の課題だ。

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