(社説)皇位の報告書 これで理解得られるか

社説

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 皇位継承のあり方をめぐり、有識者会議がまとめた報告書を岸田首相が衆参両院の議長に提出した。現在、そして将来の国民の幅広い支持を得られるか、大いに疑問がある内容だ。

 報告書は、悠仁さま以降の継承ルールを議論するには「機が熟していない」とし、それとは切り離して皇族数の確保を図ることが喫緊の課題だと述べた。そして、(1)女性皇族が結婚後も身分を保持する(2)今は認められていない養子縁組を可能とし、皇統に属する男系男子を皇族とする――の2案を示した。

 透けて見えるのは「皇位は男系男子が継がねばならない」という考えだ。継承ルールは議論しないといいながら、国民の間に一定の支持がある「女性・女系天皇」の芽を摘んでしまう仕掛けが講じられている。

 例えば(1)では、女性皇族が皇室にとどまっても、配偶者と子は皇族としないことが「考えられる」とした。一つの家族の中に皇族と一般国民が同居するという分かりにくい形をとってでも、女性皇族の子は皇位に就かせない意思を表したものではないか。天皇を支える皇族の数を増やすとした、有識者会議自らが掲げた目的にも反する。

 (2)では、養子になれるのは男系男子に限るとし、対象として戦後改革で皇籍を離れた旧11宮家の男子を明記した。会議の聞き取りに応じた複数の憲法学者が「門地による差別を禁じた憲法に違反する恐れ」を指摘したが、無視された格好だ。

 旧宮家の人々は約600年前に天皇家から分かれ、戦後は民間人として暮らしてきた。今さらの復帰は国民の理解が得られないとの声を意識して、報告書は養子本人は皇位継承資格を持たないとする考えを示した。一方、生まれる子に継承権を与えるかについては言及を避けていて、事実上否定する考えを打ち出した(1)との違いは明らかだ。

 仮に(2)の道を選ぶとしても、男系男子に固執する限り、持続可能な継承制度にはなり得ず、養子になる人やその家族も男子出生の重圧を受け続ける。

 衆参両院は17年6月、安定的な皇位継承のための課題や女性宮家の創設などについて、新天皇即位後すみやかに検討するよう政府に求めた。だが安倍・菅政権は作業を先送りし、ようやく出てきた報告書も国会の要請に応えたものとは言い難い。

 民主社会で天皇制は多くの国民の支持があって初めて存立する。価値観の一層の多様化が見込まれるなか、報告書の考え方で皇室は安定して活動・存続できるのか。(1)(2)いずれの案にせよ、本人意思の尊重をどう考えるか。与野党の立場を超えた真摯(しんし)な議論が求められる。

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