(社説)防衛費拡大 加速化 理解得られるか

社説

[PR]

 厳しさを増す安全保障環境や軍事技術の進展への対処は必要だが、防衛費拡大のペースを速めることに、国民の理解がどれだけ得られるか。政府は日本の経済・財政の身の丈も踏まえ、軍事力のみに頼らない総合的な安保戦略の下、規模ありきではない、真に効果的な防衛力の在り方を探るべきだ。

 岸田政権になって初めて編成された来年度当初予算案で、防衛費は前年度比583億円増の5兆4005億円と、8年連続で過去最大を更新した。

 今回の特徴は、防衛省が、先の臨時国会で成立した今年度補正予算と来年度予算案を一体の「16カ月予算」として組んだことだ。「防衛力強化加速パッケージ」と銘打ち、その合計は6兆1744億円と初めて6兆円台となり、対国内総生産(GDP)比も1・09%と、当初予算の目安の1%を超えた。

 補正予算は本来、当初予算の作成後に生じた災害などの「緊要な経費」を賄うものだ。防衛費に限らず、財政法の趣旨を逸脱した計上がまかり通っているとはいえ、哨戒機ミサイルなど、主要装備品の新規取得を盛り込んだのは異例のことだ。

 岸防衛相は会見で「一体編成で大幅な増額を実現した」と強調した。4月の日米首脳会談の共同声明で、米国に「防衛力の強化」を約束し、先の衆院選で「GDP比2%以上も念頭に増額を目指す」と公約した自民党からの後押しもある。内外に規模拡大をアピールしたい思惑が先行しているのではないか。

 本当に必要な経費であれば、当初予算に堂々と計上すればいい。補正予算の審議は極めて短期間に限られ、専門性の高い外交防衛関係の委員会で吟味されることもない。国会による厳しいチェックを避けるような手法を続けてはならない。

 今回の予算案では、研究開発費が前年度比1・4倍の2911億円に増えたのも特色だ。航空自衛隊のF2戦闘機の後継機の開発には858億円が計上された。将来的には兆の単位を見込む大型プロジェクトで、エンジン部分は英国との共同開発に向けた実証事業が近く始まるが、計画の具体的な全体像はいまだ示されていない。

 膨らむ社会保障費新型コロナ対応などで、財政事情が一層厳しさを増すなか、防衛費への手厚い配慮が続く。6年前と比べ、その増加額は、公共事業費の約3・4倍、文教・科学振興費の約4・8倍となる。一方で、部品調達などのコスト削減の努力は十分とはいえない。

 限られた予算をどう配分するか。年明けの国会での予算審議では、その費用対効果や優先順位を徹底的に議論してほしい。

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

【お得なキャンペーン中】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら