(社説)税制改正大綱 めざす社会像が見えぬ

社説

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 社会経済の根幹である税制は、岸田首相がめざすという「新しい資本主義」の実現に欠かせない政策手段のはずだ。ところが、きのう与党がまとめた来年度税制改正大綱では、首相自身が「放置できない」としている格差是正や地球温暖化対策といった重要課題が軒並み先送りされた。

 年末に期限を迎える住宅ローン減税税額控除率などを見直すほか、固定資産税のコロナ特例の縮小や高速通信網「5G」の優遇税制の延長も決まった。

 一方、首相が一時、分配政策として言及していた金融所得課税の強化や、炭素税などのカーボンプライシングは、結論を出す時期すら示さなかった。これでは国民に、めざす社会や経済の姿が見えない。

 大綱の目玉は、賃上げ促進税制だ。「アメ」として、税額控除の上限を中小企業は25%から40%に、大企業は20%から30%に引き上げる。超大企業には「ムチ」として、賃上げをしなければ研究開発減税などが受けられない措置を強めたとする。

 ただ、減税には、黒字企業しか恩恵が及ばない限界がある。「ムチ」も定期昇給さえすれば回避できる緩い発動基準で、効果はさほど期待できない。

 忘れてならないのは、安倍政権のもとで法人減税が繰り返されても、狙い通りには働き手に恩恵が行き渡らず、企業の内部留保や配当ばかりが増えたことだ。この流れが続くのであれば、「ムチ」の抜本的な強化が求められよう。法人税率の引き上げも有力な選択肢だ。

 利益に偏重した企業経営の変革も、「新しい資本主義」の大きな課題のはずだ。賃上げは、企業による利益の社会還元の一環とも位置づけられる。その動きを投資家や消費者も注視する必要があり、外部から見える仕組みの構築が急務である。

 今回の賃上げ減税で、適用を受ける超大企業に賃上げ方針や取引先への配慮を宣言するよう求めたことは注目に値する。

 近年はトヨタ自動車などベースアップを開示しない大企業が目立ち始めた。宣言を抽象的な文言に終わらせず、賃上げなどの具体的な内容を開示させなければならない。国民がわかりやすく比較できるようにする工夫も必要だ。

 税制の課題はほかにもある。介護職員や保育士らの処遇改善や少子化対策を強力に進めるには、十分な予算が欠かせない。納税者の暮らしを守りつつ、財源を確保していくのは難題だ。

 だからこそ、税制を議論する際は透明性のある場で、幅広い関係者や専門家の意見を聞くべきだ。与党の密室の調整では、国民の納得は得られない。

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