安全な地で子どもを育てたい。安定した暮らしを築きたい。そんな切なる願いを抱く移民や難民を危険にさらす言語道断の振るまいである。

 世界最北の内陸国であるベラルーシに、中東などの人びとがにわかに集まった。イラクのクルド系が多く、アフガニスタンやシリアからの難民も含め、欧州への移住をめざしている。

 隣のポーランドなどの国境に数千人が押し寄せ、同国の治安部隊が押し返す騒ぎになった。多くは行き場を失い、国境付近で厳寒にさらされ、一部は死亡したとも伝えられている。

 この背景に、ベラルーシ当局の意図があるのは明らかだ。中東などで入国ビザの条件を緩めてわざと呼び入れ、隣国への移動を促しているとみられる。

 昨年の大統領選での当選を主張するルカシェンコ氏は選挙の不正疑惑や弾圧をめぐり、欧州連合(EU)から制裁を受けている。対抗するようにロシアと関係を強め、強硬な態度を崩していない。

 今年5月には、領空を飛行中だった国際線旅客機に戦闘機を発進して強制着陸させ、乗っていた反政権派を逮捕するという暴挙にでた。

 今回は、欧州が悩む移民・難民問題を利用し、EUに加盟している隣国を揺さぶろうとしたようだ。ルカシェンコ政権の常軌を逸した非人道性を改めて浮き彫りにしている。

 ルカシェンコ氏は、移民を助けているだけだと言うが、説得力はない。EU側との調整もないまま、国境に送り込めば大混乱するのは目に見えている。

 日本を含む主要7カ国(G7)の外相は共同声明で、冷酷な行為が「人命を危険にさらしている」と非難した。

 ベラルーシはただちに無責任な行動を中止し、立ち往生している人びとの命と安全を守るために、国際社会と真剣な対話に臨むべきだ。

 ポーランドはこれまで、ベラルーシから逃れた反体制派を受け入れてきた実績がある。東京五輪に参加した選手の亡命を認めたことも記憶に新しい。

 一方、移民や難民に対しては欧州のなかで特に厳しい姿勢が批判されてきた。今回の騒動についてポーランド政府は、EU全体での対応を求めている。

 責任はひとえにベラルーシにあるとはいえ、事態は急を要する。ポーランド側でも越境者に対し、国際法の趣旨に沿わない対応も散見される。

 ここはポーランドに自制を求めるとともに、ドイツやフランスなどの主要国に積極的な介入を望みたい。罪のない多くの移民・難民の命がかかわる人道の問題として対処してほしい。