(社説)衆院選 憲法 議論の土台立て直しを

社説

[PR]

 在任中、意欲を示し続けた安倍元首相と異なり、岸田首相が街頭演説などで改憲を強く打ち出すことはない。だが、自民党の公約は、取り組みのさらなる強化をうたい、具体的な4項目をあげている。憲法に対する各党の姿勢、これもまた重要な論点の一つだ。

 4項目は「自衛隊の明記」「緊急事態対応」「参院選の合区解消」「教育の充実」で、安倍氏が党総裁だった3年前に打ち出された。首相はどれも「極めて現代的な重要課題」だとして、3年間の自らの党総裁任期中の実現をめざすと述べた。

 しかし、4項目をめぐる議論が今まで一向に進まなかった背景を、首相は直視すべきだ。安倍氏や自民党の「改憲ありき」の態度が、野党の不信や警戒を招き、国民の理解や支持も広がらなかったことを重く受け止める必要がある。期限を切って結論を急げば、憲法改正に求められる、丁寧な議論と幅広い合意形成に逆行するだけだ。

 安倍・菅政権下では、憲法をないがしろにする決定が繰り返された。憲法解釈を一方的に変更し、集団的自衛権の行使に一部道を開いた安保法制しかり。憲法53条に基づく、野党の臨時国会召集要求のたなざらしを繰り返したことしかり。民主主義の根幹を掘り崩す公文書改ざんや国会での「虚偽」答弁など、憲法が掲げる原則や価値にもとる振る舞いも多かった。

 こうしたことが野党共闘の原動力になったことは間違いない。立憲民主、共産、れいわ新選組、社民の4党が、市民連合の仲介で結んだ共通政策は、まず「憲法に基づく政治の回復」を掲げ、安保法制の違憲部分の廃止などを盛り込んでいる。

 選挙後の国会では、国民投票をめぐる積み残しの課題が待っている。先の通常国会で国民投票法を改正した際、付則に明記されたCMや運動資金の規制である。施行後3年をめどに「必要な法制上の措置」などを講ずるとされた。

 表現の自由や知る権利に配慮しつつも、有権者が適切な判断を下せるよう、賛否を呼びかける運動の公平公正を確保するうえで欠かせない取り組みだ。安倍政権下で崩れた憲法論議の土台を立て直す試金石となろう。

 憲法改正を国会で発議するには、衆参各院で総議員の3分の2以上の賛成が必要だ。首相は衆院解散時の記者会見で「選挙だけで3分の2を確保するという考え方には無理がある。その後の議論の中で、より多くの方々に理解を得ることによって3分の2を得る」と述べた。与野党の枠を超えた幅広い合意を重視するというなら、それに見合う丁寧な議論が大前提となる。

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

【お得なキャンペーン中】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら