(社説)GPS付き保釈 「人質司法」解消の道に

社説

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 国外逃亡のおそれがある保釈中の刑事被告人に、GPS(全地球測位システム)の端末を装着させる制度を創設するよう、法制審議会が答申した。

 被告を拘束し続けることは避けつつ、確実に裁判を受けさせる。そのために考えられた措置だ。ただし運用次第でプライバシーの侵害にもなりかねない。人権の保障と刑罰権の行使という二つの要請を満たすために、新しい技術を上手に使いこなす知恵が求められる。

 日産自動車元会長のゴーン被告がレバノンに無断で出国し、公判が開けなくなったのは記憶に新しい。ほかにも保釈中に行方がわからなくなるケースが続き、対応が求められていた。

 答申によると、GPSの装着は裁判所が判断する。空港や港湾施設がある一帯を「所在禁止区域」とし、被告が立ち入っていないことを裁判所が位置情報で常に確認。入ったとわかったら検察に通知して、必要に応じて拘束する。また、理由がないのに公判期日に出頭しない行為を犯罪とし、刑罰を科すことなども盛り込まれた。

 この通りに刑事訴訟法などが改正されれば、GPSによる所在確認を刑事手続きに組み込む初の試みとなる。被告が関係者と会って口裏合わせをしたり、被害者に接触したりするのを防ぐ手段としても、広く活用すべきだとの意見もあった。だが国内には実務の蓄積がないため、今回は国外逃亡の防止に絞って制度を導入することになった。当を得た判断といえる。

 答申は、所在禁止区域に入らない限り、当局が位置情報を確認することを禁じている。これを厳守させるのはもちろん、被告の心身に過重な負担を与えないよう、端末の仕様や装着方法にも配慮が求められる。

 改めて言うまでもなく、事件の容疑者や被告になっても、身体は自由であるのが原則だ。逃亡や証拠隠滅のおそれがある場合に限り、裁判所の判断で勾留することができる。

 ところが実際は、黙秘したり否認を続けたりすると拘束が長期に及ぶ傾向があり、人質司法と呼ばれて国内外の批判を受けてきた。近年、裁判所の意識改革が進み、勾留状が出た被告のうち、その後保釈が許された割合は、19年で32%と10年前に比べて倍増した。とはいえ問題が解消されたわけではない。

 GPSの装着義務づけも自由の侵害ではあるが、拘置所に留め置かれることに比べれば、被告の権利保障にかなうとの声は多い。GPSによる所在や行動の把握にどんな課題があり、勾留に代わる手段としてどこまで有効か。運用を重ねて、社会的な合意づくりを進めるべきだ。

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