(社説)4年ぶり衆院選へ 民意に託された政治の再生

社説

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 新政権発足からわずか10日、岸田首相が衆院を解散した。31日の投開票まで17日間という異例の短期決戦である。

 日本の民主主義を深く傷つけた安倍・菅両政権の総括のうえに、政治への信頼をどう取り戻すか。少子高齢化など直面する課題への処方箋(しょほうせん)や、「コロナ後」も見据えた将来のビジョンをどう描くか。与野党は明確な選択肢を示して、有権者の審判を仰がねばならない。

 ■疑似政権交代の限界

 振り返れば、これまでの展開は異例ずくめだった。

 新型コロナ対応で国民の信を失った菅前首相が退陣を表明したのは、衆院議員の任期満了まで残り1カ月半というタイミング。4氏が立候補した自民党総裁選は、不人気な首相に代わる「選挙の顔」選びとなったが、大半の派閥が事実上の自主投票を決めたこともあり、「本命」は定まらず、決選投票を経て首相の当選が決まった。

 安倍・菅政権の異論を排除する強権的な手法や「説明しない政治」への批判が高まる中、「聞く耳」や「丁寧な説明」を売りにする首相を担ぎ上げたことは、この党がかつてみせた、党内での「疑似政権交代」を思い起こさせた。

 60年安保闘争で社会の分断を広げた岸信介の後は、経済重視で「寛容と忍耐」を掲げる池田勇人に。金脈問題で退陣した田中角栄の後は、「クリーン三木」と言われた三木武夫に。「新しい資本主義」を看板に、分配を重視する首相の姿勢は、政治手法のみならず、政策面でもこれまでの路線の転換をめざしているようにもみえた。

 しかし、その後の党や内閣の人事、臨時国会での所信表明演説と各党の代表質問に対する答弁をみる限り、転換よりも「継承」に近いと言うほかない。「安倍1強」体制が長く続き、党内から多様性が失われた自民党の限界が示されたといえる。

 ■「安倍・菅」総括の時

 首相はゆうべの記者会見で、今回の衆院選を「未来選択選挙」と命名した。確かに、次の4年間の政権運営を誰に託すのかを選ぶ場であることに間違いはないが、その前提として、現在の与党のこれまでの実績は厳しく評価されねばならない。だが、自民党の総裁選では、安倍・菅政権の負の側面が吟味されることはなかった。

 首相には、森友・加計・桜を見る会といった、安倍政権下の疑惑を清算しようという意思はみられない。時の権力者に近い者が特別扱いされたのではないかという一連の問題は、政治や行政の公平・公正に対する疑念を招き、統治機構に対する信頼を著しく損なうものだった。これこそ、首相がいう「民主主義の危機」ではなかったのか。

 首相は菅政権が拒んだ日本学術会議の会員候補6人の任命にも応じない。長年維持されてきた法解釈を、ろくな説明もないまま一方的に変更するという、安倍・菅政権で繰り返された振る舞いを是認するに等しい。

 この臨時国会で、一問一答形式で議論を交わす予算委員会の開会に応じるかどうかは、安倍・菅政権の国会や野党を軽視する姿勢を改める試金石だったが、首相が選んだのは早期の衆院解散だった。投開票日を想定より1週間前倒ししたのは、ぼろが出ないうちにという党利党略とみられても仕方あるまい。

 政策面でも、安倍・菅政権との違いはあいまいになるばかりだ。総裁選の公約で分配政策の柱としてあげた金融所得課税の見直しは早々に先送りされ、外交・安全保障政策や改憲へのスタンスは、安倍元首相に近いといっていい。

 ■問われる野党の実力

 野党第1党の立憲民主党は、選択的夫婦別姓制度の早期実現や金融所得課税の強化を含む格差是正策、森友・加計・桜を見る会問題の真相解明など、自民党との違いを意識した政策を掲げる。長らく「1強多弱」といわれ、安倍・菅政権の横暴に十分な歯止めをかけられなかった野党にとって、今回の衆院選はまさに正念場である。

 4年前は最大野党の民進党が、公示直前に立憲と希望の党に分裂し、野党系候補の乱立を招いた。今回は「市民連合」の仲立ちで、立憲、共産、社民、れいわ新選組の野党4党が「共通政策」に合意。全国の289の小選挙区のうち、200以上で、国民民主を含めた野党5党の候補者が一本化される見通しとなった。

 共産、社民、れいわ新選組は、先の首相指名選挙で立憲の枝野幸男代表に投じた。野党連合の形が明確になり、多くの選挙区で、自民、公明の与党連合との1対1の構図ができたことは、有権者にとって、わかりやすいといえる。

 ただ、野党の共通政策には、具体像や実現に向けた手順が示されていないものもある。共産党との協力をめぐっては、立憲と国民民主の間に考え方の違いもある。有権者の心をつかみ、共闘の実をあげられるか。短期決戦の中で真価が問われる。

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