(社説)初の所信表明 信頼と共感 遠い道のり

社説

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 肝いりの「新しい資本主義」の具体像は見えず、政治への信頼回復に不可欠な「政治とカネ」の問題には言及がない。冒頭に掲げた「信頼と共感を得られる政治」を本当に実現できるのか、道のりは遠い。

 岸田首相がきのう、就任後初の所信表明演説を行った。政権がめざす理念や政策の柱は、自民党総裁選での訴えに沿ったものだが、具体的な肉付けはこれからというものが多い。国政を任せてくださいと、衆院選で有権者に問うには、判断材料はまだ不十分と言わざるを得ない。

 喫緊の課題である新型コロナ対策では、国民に納得してもらえる丁寧な説明と、常に最悪の事態を想定した対応を基本とするとした。しかし、関係閣僚に指示した安心確保のための取り組みの全体像はまだ示されていない。一方、過去の対応の徹底的な分析と検証を打ち出したのは当然である。安倍、菅両政権の失敗の原因を見極め、第6波への備えや新たな感染症対策に生かさねばならない。

 経済政策については、格差と分断をもたらした新自由主義的な政策の転換を強調した。ただ、ビジョンの具体化は、今後つくる「新しい資本主義実現会議」にゆだねられた。

 働く人への分配強化策として具体的に挙げた、賃上げ企業への税制優遇は安倍政権下でも採用され、効果は乏しかったのが現実だ。総裁選の公約にあった金融所得課税の見直しは盛り込まれなかった。税制を通じた再分配の強化に及び腰では、格差是正の本気度が問われる。

 外交・安保では、経済安全保障を推進するための法案の策定や、13年に閣議決定された外交・防衛政策の基本方針「国家安全保障戦略」の初めての見直し、防衛大綱と中期防衛力整備計画の改定に取り組むとした。防衛力の強化に偏らず、外交努力を含めた総合的な戦略の構築をめざす必要がある。

 被爆地・広島出身の首相として、「核兵器のない世界」に向け全力を尽くすと言ったことは、前向きに受け止めたい。まずは第一歩として、核兵器禁止条約の締結国会議へのオブザーバー参加を決断すべきだ。

 総裁選の期間中に首相が繰り返したキーワードで、演説にはなかった言葉がある。「寛容な政治」だ。「我が国の民主主義が危機に陥っている」という現状認識と、それを踏まえた信頼回復策も示されていない。

 コロナ禍や社会の分断を乗り越え、「絆の力」で新しい時代を切り開く――。演説では前向きなメッセージに重きを置いたのかもしれないが、初志をおろそかにすれば、「信頼と共感」は得られないと心すべきだ。

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