(社説)真鍋さん受賞 温暖化の危機感 新たに

社説

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 半世紀前に予測された地球の未来が現実となって、人類に対策を迫っている。

 大気中の二酸化炭素が増えると気温が上がることを、世界に先駆けてスーパーコンピューターを使って示した米プリンストン大の真鍋淑郎さんらに、今年のノーベル物理学賞が贈られることになった。

 太陽から届くエネルギーと地球からの放出のバランスを計算すると、地上の温度はマイナス18度となる。我々が暮らせるのは温室効果ガスのおかげだ。一方で、大気にわずかに含まれる温室ガスの量の急激な変化は気候変動を起こし、人や生き物の生活を脅かしてしまう。

 真鍋さんは、地球の大気の動きをスパコンで計算する手法を使って、気温や湿度など大気の物理条件だけではなく、海水温や海流といった海洋の影響も含めた「大気・海洋結合モデル」で、温暖化の研究を大幅に進展させた。今回の授賞理由でも「現在の気候モデル開発の基礎となった」として、気候変動の予測への貢献を評価している。

 地球で温暖化は進んでいるのか、それは人類の活動によるものなのか、論争は長年続いた。研究への関心が高まり始めていた1989年、真鍋さんは朝日新聞の取材に「科学者が100%証明するのを待っていては、手遅れです」と語っている。

 温暖化は人間の影響だとする研究が積み重ねられ、2007年には、警鐘を鳴らしてきたゴア元米副大統領と国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)がノーベル平和賞を受賞した。IPCCの予測も真鍋さんらの研究が使われている。今年8月の地球温暖化の科学的根拠を示した報告書で、人間の影響であることは「疑う余地がない」と、IPCCは断言した。

 温暖化対策の世界ルール「パリ協定」は、産業革命前からの気温上昇を2度よりかなり低く、できれば島国などへの影響を最小限にできる1・5度に抑える努力目標を掲げる。先進国は温室ガス削減に向けて動いており、日本も昨年、50年に実質ゼロの目標を掲げ、法律にも明記した。後戻りすることなく、進めていかなければならない。

 コロナで延期されていた国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)が10月末から英国で開かれる。コロナ禍で傷んだ経済の再生を気候変動対策や生態系保全への取り組みと連動させる「グリーンリカバリー(緑の復興)」が注目される。

 真鍋さんへのノーベル賞を、人類が直面する気候変動への危機感の高まりと受け止め、目標達成のための政策を具体化し、企業活動や人々の暮らしのあり方も見直す必要がある。

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