(社説)岸田新内閣が発足 実行問われる「寛容な政治」

社説

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 「丁寧で寛容な政治」を掲げてきた岸田首相率いる新内閣が発足した。

 振り返れば、9年近くに及んだ安倍・菅政権に欠けていたのが、「丁寧」と「寛容」である。法解釈の一方的な変更や「数の力」を頼んだ国会運営、異論に耳を傾けず、考え方の異なる人を排除する姿勢……。

 首相は果たして、その初志を貫けるのか。安倍元首相や、両政権を支えた実力者の意向には逆らえないと見透かされれば、来たるべき衆院選で、有権者の厳しい審判を受けるだろう。

 ■「政高党低」に変化も

 閣僚20人のうち13人が初入閣。新設の経済安全保障担当相に抜擢(ばってき)した小林鷹之氏ら3人は衆院当選3回で、うち2人が40代。総裁選で争った野田聖子氏を少子化担当相に充てるなど、女性は3人だ。

 総裁選で支援を受けた主要派閥への配慮や、入閣待機組の起用もあるが、総じていえば、老壮青のバランスに腐心し、「中堅若手の登用」も果たした。

 一方、党役員人事では、実力者を軸にした布陣が目立つ。安倍・菅両政権で一貫して副総理兼財務相だった麻生太郎氏を副総裁に。党運営の要である幹事長は、安倍、麻生両氏の盟友甘利明氏。衆院選の公約づくりを担う政調会長には、安倍氏の全面支援によって総裁選で善戦した高市早苗氏を起用した。

 政府と党の力関係を背景に、安倍・菅政権で顕著だった官邸主導の政策決定に変化が生じる可能性もある。

 首相は総裁選の期間中、安倍政権で政調会長も務めた経験を踏まえ、政府と党は「車の両輪」なのにバランスが崩れてしまったとして、あるべき姿は「政高党低」ではなく「政高党高」だとの考えを示した。

 確かに、地域や現場の実情に通じた与党議員の声を、政策に生かすのは当然だが、最終的に決定に責任を負い、国会への説明責任を担うのは政府であり、内閣である。政策決定のプロセスが不透明になり、責任の所在があいまいになる事態は避けねばならない。

 ■コロナ対応猶予なし

 首相はきのうの就任会見で、14日に衆院を解散し、19日公示、31日投開票の日程で衆院選を行う意向を表明した。新内閣としては、まずは勝利に全力をあげることになろうが、一時の空白も許されないのが、新型コロナ対策である。

 新規感染者数は減り続け、医療体制の逼迫(ひっぱく)にも改善がみられる。しかし、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の全面解除に伴い、人々の活動は徐々に活発になるだろう。冬場に向け、「第6波」を想定した備えに万全を期さねばならない。

 菅政権では、厚生労働相、コロナ対策担当も兼ねた経済再生相、ワクチン担当相の3人が主に対応にあたったが、「船頭が多すぎる」として、新内閣では一本化すべきだとの意見もあった。しかし、結局は3人による分担が維持された。後藤茂之厚労相、山際大志郎経済再生相、堀内詔子ワクチン担当相のいずれも初入閣であり、総合調整がうまくできるか、官邸の指導力が問われる。

 外交・安全保障政策は、茂木敏充外相、岸信夫防衛相の2人を再任したことで、切れ目ない対応が可能となろう。ただ、中国をにらんだ経済安全保障推進法(仮称)の策定を担う担当相の新設や、防衛費の大幅増や敵基地攻撃能力の保有に積極的な高市氏の政調会長就任で、中国に対し、「対話」より「対峙(たいじ)」の姿勢がより強まる可能性がある。首相には、近隣外交の立て直しに向けたビジョンを早期に示してもらいたい。

 ■選挙を急ぐ党利党略

 首相が決断した衆院選の日程は、解散から投開票まで17日間しかなく、戦後最短となる。

 野党が憲法の規定に基づいて求めた臨時国会の開会を、2カ月半もたなざらしにしたうえ、ようやくきのう召集された国会は、首相の所信表明演説に対する与野党の代表質問が終わったら閉じるという。

 社説は首相に対し、衆院選を行う前に、党首同士が一問一答で議論を交わせる予算委員会党首討論を開くよう求めた。安倍・菅政権の国会軽視、説明しない政治を、目に見える形で改める一歩となるし、衆院選を前に有権者に判断材料を示すことができると考えたからだ。

 しかし、首相は応じず、衆院選の投開票日も、実現可能な最速の日程を選んだ。国民の信を失った菅前首相が退陣し、総裁選で自民党への注目が集まった今、新内閣発足の勢いのあるうちに選挙を済ませたいという党利党略がすけてみえる。

 首相は総裁選立候補にあたり、「政治の根幹である国民の信頼が大きく崩れ、我が国の民主主義が危機に陥っている」と述べたのではなかったか。森友問題の再調査を否定したり、現金授受疑惑の説明責任を果たしていない甘利氏を幹事長に起用したり、これではその本気度を疑われても仕方あるまい。

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