新型コロナウイルスへの対応は、次期自民党総裁が直面する最大の課題の一つだ。にもかかわらず、4人が名乗りをあげた総裁選で肝心のことが十分に語られているとは言い難い。

 菅政権のコロナ対策にはどんな欠陥があり、なぜ国民の支持が離れたのかという、今回の首相交代の核心に迫る議論だ。それは、閣僚あるいは与党の有力者として、首相を支え、必要に応じて苦言を呈すべき立場にいた、候補者それぞれの責任に通じる話でもある。

 日本記者クラブ主催の18日の討論会で、各候補は菅首相に欠けていた点として、「丁寧な説明」や「最悪の事態の想定」に言及した。だが、説明の仕方だけでなく「中身」にも独善に基づく数々の誤りがあったこと、しかもそれを認めず、自らの考えに固執して民意との溝を深めたことこそを指摘し、今後の戒めとすべきではないか。

 首相は退任表明となった9日の会見で、コロナ対応を困難にした理由に、病床や医療従事者を確保する難しさ、省庁の縦割り、国と自治体の間の壁を挙げた。いずれもかねて分かっていた問題なのに、首相就任後その解消に真剣に取り組まず、代わりに先頭で旗を振ったのがGoTo事業の推進だった。

 感染症の専門家らの慎重論を聞き入れることなく事業を続け、やがて東京などへの2度目の緊急事態宣言に至ったのは記憶に新しい。以後、宣言は常態化し、自らが掲げた「社会経済活動との両立」には程遠い。

 コロナ禍ではどの国も試行錯誤を繰り返し、政治リーダーの振る舞いも様々だ。誤りを率直に認め、次の施策に生かすべく国民との対話に努める指導者がいれば、説明を拒み、自身の正当化に走る指導者もいる。菅首相は後者の典型だった。

 たとえば首相は6月半ば、ワクチン接種の進展を誇り、五輪開催のころには「高齢者を中心に重症者が大幅に減り、医療への負荷も大きく軽減される」と述べた。ところが間もなく第5波が全国を襲い、重症者は連日最多を更新。入院できずに自宅で亡くなる人が相次いだ。

 なぜ見通しを誤ったのか。どこに間違いがあり、繰り返さぬために今後どうするのか。当然行われるべき説明は今もなされていない。専門家の意見をつまみ食いし、迷走の末に政権運営に行き詰まった姿は、約1年前の安倍前首相と重なる。

 異論にも耳を傾け、謙虚に話し合い、自ら下した最終判断の責任を引き受ける。誰が新総裁になっても、この姿勢を欠いてはコロナ対策を全うすることはできない。2代続いた「失政」が残した大きな教訓である。