施設・里親家庭の子、夢あきらめないで 「先輩」の奨学生ら、進学への道を指南

[PR]

 お金や住む場所の心配があっても、夢や進学をあきらめないで――。児童養護施設や里親家庭で育った大学生らが中心となり、中高校生向けにオンラインでイベントを開いた。きっと道はあるし、応援してくれる人は必ずいるから、あきらめずに手を伸ばしてほしい。そんなメッセージを込めて。

 5日に開かれたのは「社会的養護で暮らす中高生のための『夢・進学 応援セミナー』」。冒頭に登壇したのは、児童養護施設などで暮らす子どもや出身者を支援するNPO法人「なごやかサポートみらい」(名古屋市)の蛯沢光理事長。児童養護施設で10年間暮らした蛯沢さんは、次のように中高生に語りかけた。

 「残念ながら日本で大学にいくにはお金がかかる。でも、いけます。僕も奨学金をもらっていった」

 虐待や、親の病気や死亡、経済的な理由などで児童養護施設や里親家庭で暮らす「社会的養護」の子どもは全国に約4万5千人。親からの支援がなかったり、進学に関する情報が限られていたりすることで道が狭められてしまうことも多い。全国で高校卒業者の約半数が大学や短期大学に進学するなかで、児童養護施設出身者に限ると進学率は2割に満たない。

 東京の大学で福祉を学ぶ大学3年生の女性は両親の離婚後、母親に育てられたが、母の病気のため9歳から里親家庭で暮らすことになった。児童相談所からも里親からも「進学は難しい」と言われ、周囲の里子も就職する人がほとんどだったため、中学の頃は「高校を卒業したら就職を視野に入れないといけないのかな」と思っていたという。

 中学3年の時に別の里親家庭で暮らすことになり、大学進学を考えられるようになった。高校1年からアルバイトをして進学資金をためたという。大学は授業料免除となり、奨学金も受けられた。似た境遇で暮らす中高生には「経済的に不利だったり、頼るところがなかったりすることで進学や夢をあきらめないでほしい」と願う。

 今回のイベントは、朝日新聞厚生文化事業団と、この女性ら同事業団の奨学金を受ける大学生有志で作る実行委員会が主催。大学生13人が準備段階から関わった。当日は、里親家庭や児童養護施設で暮らす中高生や、施設職員、里親ら約100人が視聴した。

 ■「米国に行きたい」目標公言して実現 支えてくれる大人、どこかに絶対いる

 施設や里親家庭を出た後に多様な可能性があることを知ってもらおうと、「医療」「国際」「福祉・行政」「アーティスト」の分野に携わる社会的養護出身者が経験を語り、大学生が質疑応答に加わる分科会もあった。

 「医療」分科会の講師を務めた山本愛夢(あむ)さんは、幼い頃に両親が離婚。母親から暴力を受け続け、15歳の時に保護された。高校卒業までは里親家庭で暮らし、その後は社会的養護出身者のためのシェアハウスに。寄付で運営されていたため安く住め、スタッフにも助けられたという。ここで暮らしながら看護学校に通い、看護師になった。

 「(親は子どもを)傷つけたくて産んだわけじゃない。親に余裕がないのが原因なのでは」と考え、里親や一人親家庭を支えるボランティア団体を立ち上げた体験も話した。

 大学生から「中高生の時の自分に伝えたいことは?」と聞かれると、「中高生の時は闇だった。足に何かが絡まって動けない、将来のことを考えられない感じ」と振り返り、こう語りかけた。「でも、大丈夫。誰か助けてくれる」

 「国際」分科会の講師、伊藤ヒロさんは3~15歳まで児童養護施設で過ごした。大学生の時に「米国で生活したい」と強く思い、現在はハワイで、死別や離別、養子縁組された子どもらの心のケアをする団体「Kids Hurt Too Hawaii」の活動に従事する。

 伊藤さんは「米国に行く」「米国の大学に行く」などの目標を公言してきたという。「公言することで協力してくれる人が出てくるし、自分でも後に引けなくなる」

 「ポジティブになれない時はどうしていた?」との質問には、「コメディーを見たり自然の中に行ったり。行けなければ画像を見るだけでもいい」と伝えた。

 10年前から奨学金説明会を開いてきた蛯沢さんは今回のセミナーで、「本当に必要な人に聞いてもらっている感触があった」と話す。中高生には「理解しようとしてくれる大人は社会に1人は絶対にいる。やりたいことがあれば言いふらして。支えてくれる人はいる」と伝えたいという。

 一方、大人に対しては要望が。「(子どもは)お金の問題だけでなく、漠然とした不安に耐えられる精神的基盤がないと大学を辞めてしまう場合もある」として、子どもの一生を見据えた支援を考えてほしい、と訴える。(山本奈朱香)

 【参加者からの質問と大学生・講師の回答】※抜粋

 <施設にいて大変だったことは?>

 「友達から家族のことを聞かれると、あいまいに笑って済ませたこともある。今は人生経験のひとつとして、良かったと捉えられるようになった」

 <こんな大人がいたら、と思ったことはある?>

 「『そんな悩みはぜいたくだ』と言わず、話を否定せず聞いてほしい」

 <学費や生活費について教えて。>

 「寮のある大学を探した。ファミリーホームの先輩が使った奨学金を参考にした」

 <留学したことある? 費用はどうした?>

 「英国に半年行って130万円。一部免除され、給付奨学金も使った。給付だけで乗り越えられる場合もある」

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

【お得なキャンペーン中】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら