(社説)秋元議員実刑 カジノの是非 再考の時

社説

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 公人としての倫理観はおろか、最低限の順法精神すら欠如しているというほかない――。

 現職の衆院議員に司法から発せられた痛烈な叱責(しっせき)である。

 カジノを含む統合型リゾート(IR)事業の汚職事件で、収賄などの罪に問われた衆院議員の秋元司被告=自民党を離党=に、東京地裁はきのう、懲役4年の実刑を言い渡した。

 IR担当の内閣府副大臣だった17~18年に、参入をめざした中国企業側から700万円を超す賄賂を受け取ったうえ、その相手方に対し、裁判でうその証言をすることの見返りに金を払おうとしたと認定された。

 証人買収罪は組織犯罪の取り締まりなどを目的に17年に新設されたもので、法案を提出した政府与党の一員だった秋元被告が最初の適用例となった。

 職務を汚し司法の機能をゆがめることを狙った人物が、今も議員バッジをつけ、自民党も傍観している。一審とはいえ裁判所の判断が示された以上、党としても登用した責任を踏まえ、本人にけじめを求めるとともに、経緯を総括して国民に示すのが務めではないか。

 IRは安倍前政権が「成長戦略の目玉」として推し進めたものだ。だが、国際会議場やホテルを併設し、外国人客に金を落としてもらおうという考えは、コロナ禍で説得力を著しく失った。先の横浜市長選で、菅首相がIRに反対する候補者の応援に回ったことは、構想の破綻(はたん)を自ら認めたようなものだ。

 予定では、来月から誘致をめざす自治体の申請受け付けが始まる。政府に求められるのは、状況の変化を直視し、政策の転換に踏み切ることだ。

 自治体の側も問われる。

 大阪府・市と和歌山県長崎県の3者が名乗りをあげているが、カジノが真に地域の活性化につながるか、ゼロベースで考えるべきだ。公聴会を開き、議会の議決を得るのが申請の条件だ。そこでは、想定されるデメリットも正直に示し、市民の広範な議論に付す必要がある。

 なかでもギャンブル依存症への懸念はぬぐいがたい。

 18年施行の対策基本法にもとづき、厚生労働省が初めて実施した調査の結果が先月公表された。それによると、過去1年以内にギャンブル依存などの問題を抱えた人は、18~74歳の2・2%いた。他国に比べて高い割合だといい、人口に換算すると200万人近くになる。

 パチンコ、パチスロ、競馬などに続いて、カジノは新たな依存症患者を増やし、多重債務や虐待、自殺などの悲劇を招くと指摘されて久しい。国民を不幸にして手にする「成長」とは何か。よくよく考える時だ。

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