(社説)予算概算要求 政策の大胆な見直しを

社説

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 政府の来年度予算編成に向けた各省庁の概算要求が出そろった。総額は111兆円超で、前年度要求比で6兆円程度増と大きく膨れあがった。

 総額には、コロナ対策など現時点では費用が見積もれない政策は含まれていない。実質的な要求額は更に大きいと言える。

 来年度は、団塊世代が75歳以上になり始める。高齢化や医療の高度化に伴う社会保障費の自然増は6600億円となり、前年度の4800億円から加速する。コロナに対応する医療関係者には十分な手当てが必要だが、それ以外のあらゆる分野について見直しを検討すべきだ。

 概算要求基準では、脱炭素、デジタル、地方創生、少子化の4分野に重点を置くとした。この方針に沿って、経済産業省が次世代自動車の購入補助金を倍増したほか、総務省も次世代通信規格の技術開発を公募で行う予算を新たに盛り込んだ。

 将来への投資は積極的に行う必要があろう。だが、重点分野との関係が疑わしい政策まで増額要求に紛れ込んでいる。

 例えば、経産省は日本周辺海域での化石燃料の開発予算の増額を求めた。「(燃焼時に二酸化炭素を排出しない)水素やアンモニアの原料にもなる」と説明するが、脱炭素と逆行しているのではないか。

 昨年度に108兆円もの新規国債を発行したこともあり、来年度の国債費の要求額は、初めて30兆円を突破した。いたずらに借金を重ねれば返済に追われ、不可欠な政策に予算を振り向ける余力が乏しくなる危うさを、認識する必要がある。

 未曽有の財政難のもと、菅政権には、従来以上に予算の優先順位を熟考し、大胆にメリハリをつける覚悟が求められる。

 テレワークの普及で、幹線道路や整備新幹線は計画通りに建設する必要があるのか。訪日外国人客は当面回復が見込めず、誘致策は考え直す局面だ。

 年末に向けた予算編成では、個々の事業の要否を徹底して議論しなければならない。

 菅首相はこのほど、追加経済対策の検討を自民党に指示した。看過できないのは、対策の概要すら固まっていないのに、党内から「数十兆円規模」を求める声が出ていることだ。迫る衆院選に向けた予算のばらまきは、到底認められない。

 コロナ禍で苦境に立つ事業者や働き手の支援は必要だ。対策の規模は、そうした政策を精査して決めるのが筋である。

 借金は、今の政策決定に関われない将来世代へのツケ回しにほかならない。度重なる巨額の歳出で財政規律のたがが外れたままでは、現役世代の責任を放棄したも同然である。

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