(天声人語)指先の命綱

 一見、大きめの洗濯バサミのよう。人さし指の先端を挟むとすぐ血中酸素飽和度が表示される。「パルスオキシメーター」と呼ばれる機器が、コロナ禍で脚光を浴びている。原理を考えたのは日本の技術者だと最近知った▼青柳卓雄さん。新潟に生まれ、発明家になる夢を抱き、大学で工学を修める。島津製作所をへて1971年に日本光電工業に入社。「ユニークなものを開発せよ」と上司に言われた▼麻酔科医との会話がきっかけで、動脈血の酸素濃度を簡単に測れる装置の開発に打ち込む。当時は採血しなければ酸素レベルが読めず、患者の顔色で判断していた。青柳さんは拍動を利用し、動脈血だけの信号を取り出すことに成功。連続測定を可能にした▼大発見だったが、すぐに光が当たったわけではない。米国で麻酔中の酸欠事故が問題化した80年代、有用性が理解され、企業が相次ぎ製品化する。各国に広まり、多くの命を救った▼晩年まで改良に尽くし、昨年4月に84歳で死去。米紙は長文の訃報(ふほう)を載せた。日本光電の小林直樹・特別研究員(62)は「論文を書くより、役に立つものを作りたいという根っからの技術屋でした」。その死を悼んだ米イエール大の名誉教授は、青柳氏を2013年のノーベル医学生理学賞の候補に推薦したとの秘話を明かした▼全国で10万人超が自宅療養という名の「自助」を強いられる時代。パルスオキシメーターは私たちの命綱となった。日本国内でももっと再評価されるべき発明だろう。

連載天声人語

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