(社説)防災とダム 課題や危うさ忘れるな

社説

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 大雨の被害を防ぐ多様な対策のなかで、ダムが一定の役割を担うのは確かだろう。ただ、建設や運用に伴う課題や危うさに目をつむり、有効性の検証を尽くさないまま「ダムありき」に逆戻りしてはならない。

 近畿の各府県を流れる淀川水系で予定される大戸(だいど)川ダム(大津市)の本体工事が、2度の凍結を経て、動き出す。

 1968年に国が計画したが、水需要の減少などで2005年に凍結。07年に治水専用に衣替えした後も、地元の声を受けた滋賀と大阪、京都、三重の知事の反対で、09年に2度目の凍結に追い込まれた。そんないわく付きのダムである。

 「脱ダム」を掲げた民主党政権による検証対象の83事業の一つとなった。ただ、河道の掘削や遊水地の整備など、代替事業案と比べた結果は「ダムが最も有利」。その後、関係府県が有識者会議にはかるなどしてこのほど容認すると決め、12年ぶりの凍結解除が固まった。

 それでも「必要なのか」との疑念は晴れないままだ。

 大戸川ダムが洪水時に水位を下げる効果は、淀川の大阪府枚方市で20センチ。計画事業費1080億円のうち過半が支出済みだが、完成にはなお10年以上を要する。大阪府内の淀川では堤防の高さに余裕があり、専門家には「堤防の強化こそ急ぐべきだ」との声が少なくない。

 ダムを巡る問題は、新設の場合に限らない。

 愛媛県では、想定以上の大雨が降った際の「緊急放流」を巡る裁判が続く。3年前の西日本豪雨の際、肱(ひじ)川の二つのダムが実施した放流で下流域の被害が拡大したとして、被災した住民や遺族が国と地元自治体に損害賠償を求めている。

 国は事前放流の強化など対策を進めているが、大雨は激しさを増している。この7月上旬、鹿児島県などに大雨特別警報が出た際も、川内(せんだい)川の上流にあるダムで一時緊急放流が検討され、緊迫したばかりだ。

 熊本県では、昨夏の豪雨で球磨川が氾濫(はんらん)したことを受け、支流に計画された川辺川ダムの白紙撤回(08年)から、治水専用の流水型ダムの建設容認へかじを切った。その後国土交通省は、川辺川ダムの貯水量などに基づき、昨年の豪雨の1・3倍以上の降雨で緊急放流が必要になるとの試算を発表。既存のダムも含めて緊急放流を懸念する声が出ている。

 環境への悪影響や建設・維持にかかる巨費が批判されてきたダムは、相次ぐ豪雨災害で「復権」が指摘される。あらゆる方策で防災に努めるのは当然だが、ダムの功罪の見極めをおろそかにしてはならない。

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