(社説)宣言地域拡大 根拠なき楽観と決別を

社説

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 新型コロナの新規感染者が全国で連日1万人を超え、東京都では「爆発的な感染拡大」に向かうことが懸念されている。菅首相や小池百合子都知事は今こそ、専門家や医療現場の強い危機感を正面から受け止め、国民の行動変容につながるメッセージを打ち出さねばならない。

 政府はきのう、東京、沖縄を対象としていた緊急事態宣言を、埼玉、千葉、神奈川、大阪の1府3県に拡大することを決めた。全国的な感染の広がりを受け、北海道、石川、京都、兵庫、福岡の5道府県には、まん延防止等重点措置を適用する。

 政府は当初、新たな措置に慎重だった。感染者が増えても、ワクチン接種のおかげで、重症化しやすい高齢者は大幅に減り、重症者は抑えられているというわけだ。しかし、ここ数日の感染者の急増に押され、判断を一転させた。そのこと自体、現状認識や見通しの甘さを如実に示している。

 東京では、40~50代を中心に入院だけではなく、重症者も増え、自宅待機を余儀なくされる人も多い。ワクチンが高齢者以外にも幅広く行き渡るには、まだ時間がかかるうえ、世界で猛威をふるうデルタ株の感染力の強さには、ワクチンの普及が進んだ国も対応に苦慮している。日本の状況が予断を許さないことは明らかだ。

 東京はすでに宣言から2週間が過ぎたが、人出の減少は限定的で、感染者数を減らす効果は今のところみられない。有効な追加対策を見いだしにくく、今回の地域拡大が結果につながるか見通せないなか、専門家は、会食や外出などの自粛にいま一度、幅広い協力を得るため、国、自治体、国民の間の危機感の共有を強く訴える。

 だが、現状は、国民に呼びかける以前に、政治指導者自身が、都合のいいデータばかりをあげて、厳しい現実に目をふさいでいるようにみえる。

 五輪によるお祭りムードが、行動抑制の呼びかけをかき消しているとの指摘があっても、小池氏は「オリンピックはステイホームに一役買っている」。首相もゆうべの記者会見で、五輪開幕後も、交通規制やテレワークなどで「歓楽街の人流は減少傾向にある」という。首相の隣に立った政府分科会の尾身茂会長は、現在を「最大の危機」と評したが、もっぱらワクチンへの期待を語る首相からは、そうした切迫感はうかがえない。

 以前の判断に誤りがあれば、率直に認める。そして、根拠なき楽観を排し、言葉を尽くして現状を説明して国民に協力を求めるべき時だ。首相にその先頭に立つ覚悟があるのかが、問われている。

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