「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表(いりおもて)島」が世界自然遺産に登録されることになった。

 国の思惑や民族意識、歴史認識の対立などが持ち込まれやすい文化遺産と違って、何より科学的な評価が基本となる。3年前に「登録延期」を勧告されて出直しを余儀なくされたが、現地を視察した国際自然保護連合(IUCN)の指摘を踏まえ、地域の構成を一部見直すなどして念願を果たした。

 再挑戦が実ったことを、まずは喜びたい。だが、この先には重い課題が待ち受ける。

 世界自然遺産になれば注目を浴び、多くの人が訪れる。これまでに国内で登録された屋久島、白神山地、知床、小笠原諸島は、いずれも自然と人間との共生に悩み、入山規制や外来種の駆除・侵入防止対策などに苦労してきた。

 奄美・沖縄は、貴重な自然が人々の営みのすぐそばに残っていることに大きな特徴がある。日々のくらしと自然保護との両立を図ったうえで、観光政策との調整にもこれまで以上に心を砕かなければならない。

 あわせて、絶滅危惧種のひとつヤンバルクイナなどがいる沖縄島北部には、米軍基地をめぐる数々の問題がある。

 自然遺産に推薦された7700ヘクタールの地域に隣接して米軍の北部訓練場が広がり、その面積は3700ヘクタールに及ぶ。ヘリコプターやオスプレイが飛び、ジャングルでのゲリラ戦などを想定した訓練が行われている。

 16年に4千ヘクタールが返還され、今回「絶滅危惧種の保護に必要」とする先のIUCNの指摘を踏まえ、7割が推薦地域に組み込まれた。だが返還された跡地からは空包やドラム缶などが見つかる。日米地位協定で米軍が原状回復の義務を負っていないためで、今後も「基地間の移動」などを理由とすれば、登録地域上空を飛行することができる。

 沖縄県は5月、沖縄防衛局に対し、返還跡地内で見つかっている米軍関係の廃棄物を調査のうえ撤去するよう要請。騒音被害の軽減や自然環境の保全に最大限配慮するよう、米軍に働きかけることも求めた。

 政府はこうした声を真摯(しんし)に受け止め、米側との協議を進めなければならない。

 世界遺産条約は締約国に、「自国のすべての能力と得られる限りの国際的な協力を得て、遺産の保護に最善を尽くす」ことを義務づけている。

 生物多様性に富み、かけがえのない価値をもつと評価された地域であり、保護は国際社会に対する日本の責務だ。政府はこの認識に立ち、地元の自治体や住民と連携しながらあらゆる手立てを講じるべきだ。