(社説)子宮移植 課題解決 透明性もって

社説

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 子宮がない女性の出産を可能にする生体からの子宮移植について、日本医学会の検討委員会が臨床研究の実施を認める報告書をまとめた。計画を進めてきた慶応大のチームが開始に向けた手続きに入るという。

 生体移植は肝臓や腎臓で多数行われている。しかし、いずれも生命維持に欠かせない臓器であり、子宮とは根本的な違いがある。臓器を提供する側(ドナー)に重いリスクを負わせることの是非はもちろん、検討すべき課題は多い。今後も透明性を確保したうえで、慎重に歩を進める必要がある。

 報告書は、ドナーが自らの意思で子宮の無償提供に同意することが必須条件だとした。当然の指摘であり、周囲からの圧力などで判断が左右されるようなことはあってはならない。

 海外での先行事例を見ると、母親や姉がドナーとなる例が多い。近しい存在だからこそ自由意思を通せなくなる恐れはないか。子どもに子宮がないのは自分の責任だとして、母親が負い目のようなものを感じることはないか。娘が移植を希望したとき、断ることができるか――。さまざまな疑問が浮かぶ。

 提供を受ける側(レシピエント)の負担も小さくない。移植後は免疫抑制剤の服用が必要なうえ、子宮が正常に機能したとしても妊娠・出産に至るとは限らない。心理面も含めたきめ細かなサポートが不可欠だ。

 生まれてくる子の視点に立った検討も忘れてはならない。親が免疫抑制剤を使うことによって子にどんな影響が及ぶか、はっきりしておらず、長期のフォローアップが求められる。

 報告書も指摘するように、移植医療は脳死と判定された人がドナーになるのが基本だ。臓器移植に関する国の指針には「生体移植はやむを得ない場合に例外として実施される」とある。

 現在、子宮は脳死移植の対象になっていないため、報告書はその法令の改正を求めつつ、実現には課題があり時間もかかるとして、今回、容認の判断に至った。このまま臨床研究が先行すれば、先の「基本」が崩れてしまうとの懸念も残る。

 また、首尾よく技術として確立しても、それが社会でどの程度支持され、広がりを持ちうるかも気がかりだ。移植を受けたくてもドナーが見つけられない人も当然予想される。移植のための費用は約2千万円とされ、だれもが受けられる医療行為とは言い難い。

 もろもろの懸案を解決するには相応の手続きと時間が要る。市民にも開かれた議論の場を設け、調査などを通じて社会の意識を探りながら合意形成に努める。それが関係者の責務だ。

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