(社説)死刑廃止30年 世界の歩み見て自問を

社説

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 さる11日は、国連の死刑廃止条約が発効して30年という節目の日だった。この間、多くの国が死刑の見直しに取り組み、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルによると、法律上もしくは事実上の廃止国は今や7割以上を占める。

 司法制度や刑罰のあり方は、各国が歴史や価値観を踏まえて決めていくものだ。一方で国家が個人の生命を奪う死刑には、国境を超えた普遍的な人権問題が宿る。誤判の可能性も消せない。日本が世界の潮流から取り残されたままでいいとは思えない。「30年」を機に、廃止に向けて歩を踏み出すべきだ。

 注目すべき動きがあった。

 米国のガーランド司法長官が今月1日、連邦政府は死刑の執行を停止すると表明したのだ。バイデン大統領は死刑廃止を選挙時の公約に掲げており、昨年夏、17年ぶりに執行を再開したトランプ前大統領とは、この点でもスタンスが違う。

 停止となるのは連邦法に違反する罪を犯した者だが、州レベルでもすでに半数近くが死刑を廃止している。先進国で存置・執行するのは日本と米国だけで、唯一の「パートナー」の動向は、日本にとっても少なからぬ意味を持つ。

 廃止国に名を連ねるか。それともイラン、エジプトイラクサウジアラビア、中国、北朝鮮などとともに、存置陣営にとどまるか。大きな岐路にあるとの認識を、関係者、とりわけ政治家は持たねばならない。

 死刑制度を維持することは、国際的な捜査や司法協力の障害にもなっている。

 容疑者が海外にいる場合、日本に死刑があることを理由に外国政府が引き渡しをためらうケースが少なくない。日本が犯罪人引き渡し条約を結べているのは米国と韓国だけで、その韓国も20年以上死刑を執行しておらず、事実上の廃止国に位置づけられる。安全保障をめぐるオーストラリアとの交渉では、死刑が存置されていることを豪側が警戒し、話し合いが停滞する局面もあった。

 政府は世論調査での国民の支持を存置の理由にする。だが、死刑確定者の処遇や執行などに関する情報の開示は限られ、議論を深める機会がなかったのが実態ではないか。

 非道な犯罪で命を絶たれた被害者の遺族の悲嘆は察するにあまりある。一方で、被害感情をそのまま刑罰に持ち込むことには慎重さが求められる。

 これまで給付金の支給や刑事手続きへの参加などが進められてきたが、なお十分とはいえず課題は山積する。物心両面での支援をさらに充実させ、被害者を孤立させないことが大切だ。

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