中国は、秘密に満ちた大国である。共産党政権がふるう強権も、都合の悪い事件や事故も、その実像に迫る報道が伝えられることは少ない。

 そんな国にあって、香港は、いわば中国と世界を結ぶ情報の窓口だった。香港メディアを通じて、中国の内実の一端が世界に伝わり、逆に国際的な視点が中国本土にもたらされた。

 そんな香港の自由な報道が、封殺されようとしている。

 香港紙「リンゴ日報」を発行するメディアグループの幹部5人が、逮捕された。100人以上の警官が会社を捜索し、記者らのパソコン数十台が押収された。約2億5千万円相当の資産も凍結されたという。

 容疑は、中国が反体制の動きを取り締まるために一方的に設けた香港国家安全維持法(国安法)違反である。同紙の約30本の記事が中国や香港への制裁を呼びかけた、としている。

 創業者の黎智英(ジミー・ライ)氏はすでに未許可デモの罪などで実刑判決を受け、個人資産も凍結された。中国への厳しい論調で知られるリンゴ日報は、経営が難しくなるのではないかとみられている。

 当局による新聞社つぶし、とも言うべき異様な弾圧だ。今回の摘発に踏み切った当局は、著名人である黎氏個人だけでなく、中国を批判する報道そのものを許さない姿勢を示した。

 ただそれでも、同紙の編集局は屈することなく、自由な編集を堅持しようとしている。

 機材などを押収されても新聞製作に取り組む様子を伝える動画を公開し、「あらゆる努力を尽くし、新聞をこれまで通りに出し続ける」と宣言した。その決意に敬意を表したい。

 自由な報道は、民主主義の基盤であるだけでなく、人びとの安全確保にも欠かせない。新型コロナ感染の初期において、中国共産党の厳しい言論統制が対応の遅れを招いたのは記憶に新しい。

 リンゴ日報は最近も、広東省の原発での「放射能漏れ」疑惑を大きく報じていた。香港からの真実を求める発信が絶えてしまえば、その損失は香港にとどまらず、中国や国際社会全体にも及ぶだろう。

 国際組織「国境なき記者団」がまとめる報道の自由度ランキングによると、かつて上位にあった香港は近年順位を下げ、ことしは180カ国・地域のうち80位。最下位クラスの中国(177位)に引きずり込まれようとしている。

 どんな体制下であれ、市民の知る権利が否定されることがあってはならない。香港の報道の自由を奪おうとする弾圧に対し強く抗議する。