(社説)G7サミット 信頼回復へ宣言実行を

社説

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 コロナ禍を終息させ、将来の繁栄を確保する。「底辺への競争」から脱し、地球環境とともに我々の価値を守る――。

 崇高な目標の数々は「G7」の再起の決意としては評価されよう。ただ、その真価は、文言どおり国際公益に資する実践が伴うか否かにかかっている。

 主要7カ国の首脳が英国に集ったサミットが終わった。首脳宣言には人権から税制・貿易、宇宙、紛争解決まで、野心的かつ網羅的な目標が盛られた。

 それはさながら、近年のG7の停滞を埋め合わせるかのようでもある。新興国を加えたG20に経済的な存在感を奪われ、さらに米国のトランプ現象で政治的モラルを失い、G7は昨年まで機能不全に陥っていた。

 2年ぶりに集まった7カ国首脳が再結束を誓ったのは、必然の流れだろう。宣言に盛られた諸問題はどれも、一国だけで解決できるものはない。

 感染症対策であれ気候変動であれ、国際的なリーダーシップの欠如を、これ以上放置できない。もはや特定の大国が世界を引っ張る時代ではない以上、少なくともかつての「先進国クラブ」が規範を示す模索を始めた意義は小さくない。

 今回のサミットは、共通の理念として「民主主義の理想」を鮮明に掲げた。持続可能な世界を築く土台は、民主主義と多国間協調であり、その価値観を基盤とするのは理にかなう。

 ただ、そのG7を、中国への対抗的な機構として性格づけるようであれば、時代錯誤というべきだ。

 宣言が明記した「台湾海峡の平和と安定」は重要であり、新疆ウイグルや香港の人権侵害に決然と異を唱えるのは当然だ。しかし経済や人流で相互依存を深める現代の世界に必要なのは分断ではなく、法の支配にもとづく包摂的な秩序である。

 自由や人権を制限する強権政治は、中国のみならず各地で増えている。その流れを変えるために、バイデン米大統領は就任演説で約束した言葉を思い起こしてもらいたい。「米国は単なる力の規範ではなく、自らが模範となって世界を導く」

 自由主義が輝きを失ったのは、新興国の台頭だけが理由ではない。先進国自らのなかで格差や差別が続き、民主主義を傷つける扇動政治と自国第一の外交が勢いづいた。その真剣な反省がなければ、G7の信頼回復はないだろう。

 遅ればせながら、G7が低中所得国へのワクチン供給に本腰を入れるという。コロナからの「より良い回復」をめざすために、世界格差の解消へ着実に行動するとともに、自らの民主主義も立て直す必要がある。

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