(社説)米軍ヘリ事故 動かぬ政府 深まる不信

社説

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 沖縄県うるま市の津堅島(つけんじま)の畑に米軍のヘリコプターが不時着した問題を受けて、県はきのう防衛・外務両省の出先機関トップを呼んで抗議した。

 不時着というと大したことではないように感じる人がいるかも知れない。だが全長18メートル、重量5トン超のヘリが、轟音(ごうおん)とともに家の120メートル先に降りてきたら、その恐怖はいかばかりか。大きな被害がなくて良かった、で済ませていい話ではない。

 ヘリは普天間飛行場宜野湾市)の所属で、2日午後11時ごろ、警告ランプが点灯したため予防着陸したという。

 納得できないことがいくつもある。一つは「訓練中だった」という米軍の説明だ。

 日米両政府は96年、沖縄の負担軽減策として、午後10時から翌朝6時まで米軍機の飛行を制限する騒音防止協定を結んでおり、明らかにこれに抵触する。

 問題は、米軍が「運用上必要とするもの」は対象外とされていることだ。結果として米軍の思うがままになっていて、普天間周辺には夜間早朝の騒音発生回数が月平均30回を超す地区もある。協定の空文化をこれ以上放置するべきではない。

 政府の対応も承服し難い。

 うるま市では15、17、18年にも米軍ヘリの墜落や不時着があった。今回、市長は住宅地上空の飛行や夜間訓練を行わないよう、改めて国側に要請した。ところが岸信夫防衛相加藤勝信官房長官は「安全確保の徹底を求めていく」などと、抽象的な発言を繰り返すばかりだ。

 厳重に抗議し、少なくとも原因が究明され再発防止策がまとまるまでは、同型機の飛行停止を申し入れる。それが国民の生命・財産を守る政府がとるべき措置ではないか。前政権時代から表明してきた「負担軽減のためできることは全て行う」との約束はいったい何だったのか。

 頻発する米軍機のトラブルを受けて、2年前に事故対応に関するガイドラインが改定され、日本側も現場の規制線内に「迅速かつ早期」に立ち入りできるようになった。だが、事故機近くにまで行くことや機体調査には引き続き米側の同意が要る。日本側がどこまで調査や捜査ができたのかを検証し、運用、制度の両面でさらなる改善を図ることが求められる。

 米軍機が飛ぶのは沖縄の空だけではない。最近は各地で異常な低空飛行が目撃され、人々の不安が高まっている。全国知事会は、そうした危険な行為を在日米軍に許す源である日米地位協定の抜本見直しを訴えるが、政府は動こうとしない。

 今回の事故は決して他人事ではない。その認識をもって、政府の今後の対応を注視したい。

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