(社説)中国の人口 出産の制限を全廃せよ

社説

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 世界最大の人口を抱える中国では、夫婦が産める子どもの人数を政府が制限している。

 規制を続けて40年あまり。いまでは少子高齢化が加速したため、共産党政権は制限を緩める方針を発表した。「2人まで」としていた制度を改め、「3人まで」にするという。

 緩和は前向きな動きではあるが、この非人道的な制度自体は残る。一刻も早く全面的な撤廃に踏み切るべきだ。

 現在の中国の人口は14億1千万人にのぼる。一方で、昨年の出生数は前年比2割減と、1949年の建国以来最低の落ち込みとなった。

 2030年前後とされてきたピークは前倒しになり、人口減少の開始時期が早まるとの観測が強まっている。

 日本を上回る速さの高齢化が、中国の社会や経済に与える影響は大きい。すでに生産年齢人口は減少に転じている。成長モデル自体が転換を余儀なくされるとみられている。

 それだけに共産党政権の危機感は強い。産児制限の緩和のほか、労働力の確保や社会保障費の増大を防ぐため、定年延長などを進めるとしている。

 一人っ子政策として知られる制限は79年に始まり、事実上の強制的な中絶など冷酷な措置で人々を苦しめてきた。人口構成のいびつさや男女比率の偏りといった弊害も生んだ。

 少子高齢化の懸念が高まるにつれて様々な条件で2人目を認めてきたが、遅きに失したようだ。16年には「2人まで」を全面的に認めたものの、少子化に歯止めはかかっていない。

 若者が出産をためらうのは、教育費や住居費の高騰といった経済的な負担への心配があるからだ。今回の緩和策も出生増につながるかは不透明だ。

 共産党は若者向けに「結婚観、恋愛観、家庭観」の「指導強化」にも乗り出すというが、そんな手法で強引に出産を増やそうとしても難しいだろう。

 出産は人間の自由な営みに委ねられなければならない。人々の思いを権力が恣意(しい)的にコントロールしようとする発想自体を改めるべきである。

 政治がすべきは、人々が子どもを産むかどうかを管理するのではなく、その選択を誰でも自由にできる環境を整備することにほかならない。

 中国では軍拡や治安維持に予算が重点配分され、子育てや介護といった社会保障制度は、そのしわ寄せを受けてきた。

 習近平(シーチンピン)体制は「社会主義現代化強国」の目標を掲げる。いくら勇ましく強権を示しても、安心して子どもを産み、育てることのできる社会にほど遠いのならば、その看板が泣くだろう。

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