(社説)75歳医療費 将来見据え改革加速を

社説

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 一定の収入がある75歳以上の医療費窓口負担を1割から2割に引き上げる医療制度改革関連法が成立した。「全世代型社会保障」の実現に向け、現役世代の負担軽減をうたう。

 だが、今回の改革の効果はきわめて限定的だ。少子高齢社会のもと、制度の持続性・安定性の確保と必要な給付をどう両立させるかという重い課題は残ったままだ。将来を見据えた改革を加速させるべきだ。

 75歳以上の多くは現在、かかった医療費の1割を負担している。残りの部分の半分は税金、4割は現役世代が加入する健康保険組合などの支援金、1割が高齢者の納める保険料で賄われている。

 この支援金が年々、健保財政を圧迫しているため、年金などの年収が単身で200万円(夫婦で320万円)以上の世帯の高齢者に2割負担を求めるのが、今回の改革の柱だ。

 国会審議で問われたのは、これらの人たちに本当に負担能力があると言えるのか、経済的な理由で受診を控えて健康を害する人が出ないか、という点だ。

 厚生労働省家計調査の統計や、外来受診の負担増を最大月3千円に抑える3年間の配慮措置などを挙げ、「必要な医療は受けられる」と説明したが、懸念が払拭(ふっしょく)されたとは言い難い。

 窓口負担引き上げが受診行動や健康にどんな影響を与えるのか。法律の施行後もしっかり検証し、所得基準の妥当性などを注視する必要がある。

 一方、政権が強調してきた若い世代の負担上昇を抑える効果は、現役世代の支援金1人当たりに換算すると年700円程度だ。高齢者人口はこれからも増え続け、ピークを迎えるのは2040年代。田村厚労相自身、「これで終わりということはあり得ない」と、さらなる改革の必要性を認めている。

 野党は今回の対案として、高所得層の高齢者が支払う保険料の上限引き上げを提案。健保組合側からは、窓口3割負担となる現役並み所得の基準の見直しの提案があった。さらに両者とも言及したのが税金の投入だ。

 窓口での負担能力の判断については、金融資産などを加味すべきだとの意見が根強くある。一方、能力に応じた負担は税金や保険料でこそ、徹底すべきだという考え方もある。

 医療にかかる費用は、だれがどんな形でどの程度負担するのが望ましいのか、幅広い観点から検討しなければならない。

 同時に、効率的な地域の医療提供体制を作り、不要な検査や投薬をなくすなど、医療費の伸びを抑えることも欠かせない。

 少子高齢社会を乗り切るための改革は待ったなしだ。

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