(社説)ベラルーシ 空の安全を脅かす暴挙

社説

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 自国の上空を飛んでいる外国民航機を大統領が無理やり着陸させ、乗客を拘束する。信じがたい暴挙である。

 ロシアの西にある内陸国ベラルーシで先日、起きた事件だ。「国家によるハイジャック」と非難され、国際社会に衝撃を与えている。

 民航機の安全な航行を脅かすだけでなく、政治犯の保護や移動の自由といった原則を揺るがす事態だ。

 国連事務総長は深い懸念を表明し、独立した調査を呼びかけた。ベラルーシ政府はじめ関係国は、事実関係の究明に全面的に協力しなければならない。

 この旅客機はアイルランドの会社の運航で、ギリシャリトアニア行き。ベラルーシ国内で戦闘機が緊急発進し、首都の空港に強制着陸させられた。その後、乗客の一人で反政権派のロマン・プロタセビッチ氏が、治安部隊に拘束された。

 当局は爆弾の情報があったというが、爆発物はみつからなかった。到着予定地の空港のほうが近かったのに引き返させたことからも、反体制派の拘束が目的だったとみるべきだ。

 軍に命じたのは、四半世紀以上も政権を握る独裁的な大統領のルカシェンコ氏だ。

 ベラルーシでは昨年の大統領選の不正疑惑をめぐり、反政権運動が続いている。拘束された男性は、ネットメディアを通じてデモを支援していた。今回拘束される際に「自分は死刑になる」と恐れていたという。

 大統領としての正統性が内外で疑われ、足元が揺らいでいるルカシェンコ氏は、常識的な判断力を失ってしまったようだ。この男性を含む政治犯をただちに釈放し、公正な選挙を行う条件を整えなければ、国際社会の信認は取り戻せない。

 加盟国間の安全な移動を脅かされた欧州連合(EU)は反発し、EU域内でのベラルーシ機の飛行を禁じるなどの制裁を始めた。

 対照的に、ベラルーシとの結びつきが強いロシアは、ベラルーシの主張を受け入れ、拘束も黙認する構えだ。

 プーチン政権は昨年の大統領選以降、一貫してルカシェンコ政権を支えている。ロシアによる影響力を強め、反政権運動の自国への波及を防ぐのが狙いだろう。

 だが今回の事件の正当化は、ロシア自身が国際社会の基本的なルールに背を向けることを意味する。ロシア上空を外国旅客機が安心して飛べるのかという懸念も浮上しかねない。

 プーチン政権は目先の政治的な損得にとらわれず、ルカシェンコ政権の常軌を逸した行動にブレーキをかけるべきだ。

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