(社説)ガザ停戦合意 和平交渉の足がかりに

社説

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 がれきの山と化した市街地。家族を失い悲嘆に暮れる人々。11日間の戦闘による双方の死者は250人を超えた。この惨状に、どんな「成果」や「勝利」があったというのか。

 中東パレスチナのガザ地区をめぐる武力衝突がやっと鎮まった。イスラエルと、ガザを実効支配するイスラム組織ハマスが21日、停戦に入った。

 過去には、合意後も戦闘がしばしば再燃した。まずは双方が自制を続けることが肝要だ。そのうえで、紛争の原因を取り除くために対話の足がかりを築かなくてはならない。

 今回の犠牲者は、ガザで子ども66人を含む242人、イスラエル側で12人にのぼる。

 イスラエルのネタニヤフ首相は、地下トンネルなどの破壊によりハマスの戦力をそいだ、と成果を強調する。ハマスは数千発のロケット弾攻撃で抵抗活動が成功した、としている。

 ハマスとイスラエル軍の応酬はたびたび繰り返されてきた。そのたびハマスは軍備を蓄え、何かの摩擦で再発火する。その争いのなかで犠牲になるのは、いつも罪のない市民たちだ。

 紛争の根本を断つには、将来樹立されるパレスチナ国家とイスラエルが平和共存する「2国家解決」しかない。これが国際社会の合意のはずだ。しかし、和平交渉は7年前から途絶えている。

 10年以上政権をにぎるネタニヤフ氏は和平に後ろ向きだ。国際法違反と批判される占領地への入植拡大をやめない。

 パレスチナも、ガザのハマスとヨルダン川西岸地区を統治するファタハに分裂したままで、交渉の態勢が整わない。

 現状を打開する最大の影響力を持つのは、米国である。

 バイデン政権は、国連安保理の声明を阻んだ一方、水面下の独自外交で停戦を実現させたとしている。しかし、米国の責任は、紛争の恒久的な解決に向けて誠実で公平な調停努力を果たすことにこそある。

 ブリンケン国務長官は今週にも現地入りするという。トランプ前政権で失われたパレスチナとの信頼関係を再生し、和平交渉の復活を探るべきだ。

 電力や水道などインフラが破壊されたガザの再建は急務である。コロナ感染が広がるなかで多数の負傷者が出たことから、医療の逼迫(ひっぱく)も懸念される。

 イスラエルでは国民の半数以上が2回のワクチン接種を終えたが、パレスチナにはワクチンがほとんど届いていない。

 国連は人道目的で約24億円の拠出を決めた。世界はパレスチナを見捨ててはいない。そのメッセージとともに、日本をはじめ各国は緊急支援を急ぎたい。

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