(社説)リコール不正 民主主義への冒涜だ

社説

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 愛知県大村秀章知事に対する解職請求リコール)をめぐり、運動団体の事務局長らが共謀のうえ署名を偽造していたとして、県警が地方自治法違反の疑いで4人を逮捕した。

 県選管に提出された約43万筆のうち、実に8割以上が無効だったという信じ難い事件だ。延べ数百人にのぼるアルバイトを使い、県内の有権者の氏名などをリコール署名用紙に書き写させた疑いがもたれている。

 人集めなどは広告関連会社に依頼したというが、印鑑の代わりに指印を押したり、名簿を仕分けたりする行為を含む偽造の全てを、4人で企て実行したのか。他に関与した者はいないのか。捜査を尽くし、真相を明らかにしなければならない。

 元県議で事務局長の田中孝博容疑者は、逮捕前の取材に「予定通り署名が集まらず、焦りがあった」と話した。その時点で自分たちの主張が社会に届いていない現実を悟るべきだったのに、なぜ偽造に走ったのか。詳しい動機の解明も待たれる。

 納得できないのは、街頭に立って運動を率いた河村たかし名古屋市長や、請求代表者の美容外科経営の高須克弥氏らの態度だ。河村氏はこの逮捕で「私の関与がなかったことがはっきりする」と述べ、高須氏も自身の潔白を繰り返す。厚顔無恥ぶりにはあきれるばかりだ。

 当事者として一連の経緯を検証し、結果を説明して謝罪するのが、リコールの呼びかけに応じたスタッフや有権者に対する当然の責務ではないか。

 日本維新の会の言動も問われる。田中事務局長は2月まで同党の衆院愛知5区支部長で、次期衆院選への立候補を表明していた。他にも運動にかかわった維新関係者がいる。同党副代表の吉村洋文大阪府知事は「(容疑者は)厳正に処罰されるべきだ」とコメントしたが、そんなひとごとのような態度で済ませられる話ではない。

 事件を受けて県選管は、リコールなどの直接請求制度の運用改善策を総務省に提言した。署名が法定数に達しなくても、選管が名簿を調査できる権限の明確化や、実際に署名を集めた者の氏名を名簿に記載させることなどが盛り込まれている。

 偽造抑止の目的に異論はない。ただし手続きを厳格にすることで制度の使い勝手が悪くならないよう、留意する必要がある。直接請求は選挙と並んで、国民が地方政治に参加するための重要な仕組みだ。

 それを悪用し民意の改ざんを図った今回の犯罪は、民主主義への冒涜(ぼうとく)に他ならない。直接手を染めた者はもちろん、運動を先導しながら不正を見逃した者らにも極めて重い責任がある。

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