(社説)欧州との連携 対中 対話の努力怠るな

社説

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 台頭する中国をにらみ、日本が安全保障の分野でも、欧州との協力関係を強化している。

 日米同盟を基軸に、価値観を共にする国々との幅広い連携によって、既存の秩序に挑むような中国の行動を抑える狙いがある。ただ、力による対決色が強まれば、かえって地域の緊張を高めかねない。中国と粘り強く対話を重ねる努力が不可欠だ。

 陸上自衛隊米海兵隊、仏陸軍が先週から今週にかけて、九州各地で共同訓練を実施した。敵に占拠された離島の奪還や市街地での戦闘などを想定したもので、仏軍が日本の陸上訓練に参加するのは初めてである。

 英国は、最新鋭空母「クイーン・エリザベス」を中心とした空母打撃群をインド太平洋地域に向かわせ、日本にも寄港する方針を発表。ドイツもフリゲート艦1隻の派遣を表明した。

 いずれも、海上自衛隊との共同訓練が想定される。海外領土を持たないドイツが、この地域に軍艦を送り出すのは極めて異例のことだ。

 ここにきて、欧州各国が地理的に離れた東アジアへの関与を深めている背景には、中国に対する姿勢の変化がある。

 香港、新疆ウイグル自治区での人権侵害や、先端技術の流出への懸念などが、中国への不信感を高め、東・南シナ海での強引な海洋進出に対する危機感も、日米と共有が進んだ。

 日本としては、バイデン政権の誕生で米欧関係が修復されるなか、日米欧が足並みをそろえて中国に対応する構図をつくりたいのだろう。

 ただ、ドイツ政府内に、中国との経済関係を考慮して、軍事面が突出することへの慎重意見があるように、欧州各国には思惑の違いもある。

 何より、この連携の目的は、対中包囲網の形成などではなく、地域の平和と安定に寄与すること、そして、中国がルールにのっとって、国際社会で責任ある役割を果たすことにつながるものでなければならない。

 地域の緊張緩和と信頼醸成のためには、関係国が互いの意図を正確に理解しあうことが極めて重要である。日中両国はさまざまなレベルで、意思疎通を深める必要がある。自衛隊と中国軍の海空での偶発的な衝突を避けるため、協議が続いている防衛当局間のホットラインの開設も急ぐべきだ。

 政治レベルでの直接対話については、6月4、5日にシンガポールで開かれるアジア安全保障会議に注目したい。例年、中国政府や軍の高官も多く参加する。今年は日本から、菅首相、岸防衛相が出席する方向で調整中だ。率直な意見交換の場ができることを期待する。

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