(社説)宣言一転拡大 専門知を生かす転機に

社説

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 専門家の強い危機感を受けて、方針を転換すること自体は理解できる。しかし、そもそも菅首相はじめ政府の認識が甘くはなかったのか、自治体や専門家との事前の意思疎通は十分だったのか、不安を拭えない。

 東京都大阪府など6都府県に出されている緊急事態宣言に、北海道、岡山、広島の3道県が加えられた。群馬、石川、熊本の3県には、新たにまん延防止等重点措置が適用された。

 政府は当初、専門家らでつくる分科会に対し、北海道は現行の重点措置にとどめ、岡山、広島両県は重点措置とする案を示した。ところが、3道県の感染の急拡大を重くみた専門家から、より厳しい措置を求める意見が相次ぎ、急きょ、宣言の対象とすることを決めた。

 都市部だけでなく、地方でも、感染力の強い変異ウイルスへの置き換わりが進み、重症者も連日のように最多を更新している。地方の医療資源は都市部より手薄であり、住民の命を守るためには、より強い対策のとれる宣言とすることは妥当な判断といえる。

 Go To事業に対する対応など、政府がこれまで、専門家の意見や提案に真摯(しんし)に耳を傾けてきたとは言い難い。分科会も政府案を追認するばかりだった。菅政権は今回の初めての方針転換を、独善に陥らず、専門知や自治体の声を生かす転機としなければならない。

 国民に大きな影響を及ぼす措置の急転換は、現場に困惑をもたらし、政府に対する信頼を損なうのも事実だ。今週水曜日に開かれた厚労省の専門家会合では、宣言地域以外でも、感染状況や医療提供体制の指標が、もっとも深刻なステージ4に達している地域もあるとの分析が示されていた。

 西村康稔経済再生相は常々「日々、専門家と意見交換している」というが、こうした「警告」を真剣に受け止めていれば、最初から混乱は避けられたはずだ。

 首相はおととい、知事が札幌市限定の宣言を求めていた北海道について、適用されたばかりの重点措置の効果を見極めるなどとして、当面は現状を維持する考えを明言していた。

 一夜にして、その判断を翻したわけだが、ゆうべの記者会見では、その理由について、「専門家の意見を尊重した」と述べるだけで、見通しの甘さを反省することもなかった。

 重点措置ではなく宣言が望ましい理由として、分科会では、宣言の持つ強いメッセージ性があげられた。しかし、首相の説明では、住民に危機感を共有してもらい、行動変容につなげられるか到底心もとない。

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