(社説)公務員法改正 官の信頼回復も忘れず

社説

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 国家公務員の定年を現行の60歳から段階的に65歳に引き上げる国家公務員法改正案が国会に再提出された。昨年の通常国会で厳しい批判を浴び、廃案の引き金となった検察幹部の定年延長に関する特例規定が削除されたことから、今国会での成立は確実な情勢だ。

 特例規定は役職定年になる検察幹部を政府の判断で留任させられるようにするものだった。政治による恣意(しい)的な人事で検察の中立性が損なわれかねないとして、多くの市民がSNSで抗議の声をあげた。反対の世論はうねりとなり、当時の安倍政権を成立断念に追い込んだ。

 「国家公務員法の定年延長規定は検察官には適用されない」という従来の法解釈を変更して強行した、黒川弘務・元東京高検検事長の異例の定年延長を後付けで正当化するものでもあった。そのまま成立していれば、大きな禍根が残ったであろう。

 今回の国家公務員法改正の主眼はあくまで、3年前の人事院の「意見」を踏まえた定年延長であり、政府が再提出にあたり特例規定を削除したのは当然だ。国家公務員法の定年延長を検察官には適用しないと明記したことも評価できる。

 ただ、であれば黒川氏の定年延長に際しての解釈変更は一体何だったのか。安倍政権を引き継いだ菅政権には、明確な反省と総括を求めたい。

 少子高齢化が進むなか、意思と能力のある高齢者に働き続けてもらうことは、社会保障の維持や労働力の確保のためにも重要だ。国家公務員の定年延長自体は、時代の要請にかなうが、年齢構成が逆ピラミッド型になり、中堅・若手にしわ寄せが及ばないよう、働き方改革を同時に進めることが大切だろう。60歳になると7割水準となる給与カーブを今後どう見直していくのかも課題である。

 民間企業には8年前から、高年齢者雇用安定法で、希望する社員を65歳まで雇い続ける義務が課されている。ただ、再雇用制度の導入にとどまり、定年の延長や撤廃にまで踏み切る企業は多くはない。公務員主導で定年延長が社会に定着することを期待する声がある一方、官優遇ととらえる人もいるだろう。コロナ禍の今なら、なおさらだ。

 行政の公平性を疑わせる幹部公務員の不祥事が相次いでいるなかでもある。総務官僚は菅首相の長男が勤める東北新社やNTTから、農水官僚は元農林水産相への贈賄罪に問われている鶏卵大手前代表から、それぞれ国家公務員倫理規程に違反する接待を受けていたことが明るみに出て、処分を受けた。国民の幅広い理解を得るには、公務員への信頼回復が欠かせない。

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