コロナ禍、不本意な中退防ぐには 家計厳しく友人作れず意欲低下――専門家に聞く

 コロナ禍によって、大学生や高校生の中退が増えることが心配されている。保護者や自分が仕事を失ったり待遇が悪化したりして、家計が厳しくなった学生のほか、オンライン授業が続いて友人がつくれなかったり、学習意欲が低下したりした学生もいる。どうしたら不本意な中退を防ぐことができ、万が一中退してもやり直せるようになるのか。若者の貧困や孤立などの研究を続けてきた宮本みち子・放送大学名誉教授に聞いた。

 ■寄り添う支援、引き継ぐ仕組みを

 ――子どもを取り巻く社会の現状をどうみますか。

 かつて多くの親は、子どもに教育を授ければ親より良い暮らしができるだろう、という明るい展望をもっていました。しかし、バブル経済の崩壊以降、所得格差が広がり、社会的孤立も進み、教育への期待を失う家庭が増えました。

 また、学校教育になじめない子ども、生きづらさを抱えた子どもも増加しています。不登校や中退などで、十分な学びの機会やケアを受けることができなかった子どもたちは、困難な道のりをたどっています。

 ――コロナ禍はどんな影響を与えていますか。

 経済的・文化的に豊かな家庭はオンラインなどで子どもの学習手段を確保しましたが、それができない家庭が取り残されています。コロナ禍は、バブル崩壊以降の「失われた20年」における社会格差をさらに拡大し、深刻な教育格差を生みつつあると考えます。

 ――大学を含めた学校にできることは。

 「自分はやれるはずだ」という自己肯定感は、生きていくうえで大切なものですが、それを持てない生徒・学生が少なくないことが気になっています。それは「仲間関係」の形成や、さまざまな集団活動の経験を通してはぐくまれるものです。学校はそのための場であってほしいと思います。

 また、義務教育段階でいじめや不登校などを経験し、中退リスクを抱えるようになった生徒への学校の対応については、改善の余地があります。大事なことは、その生徒がそれまでに受けてきた支援を切断せず、次の段階に引き継いでいくことです。中学から高校へ、高校から大学へ、または実社会の自立支援プログラムへとつないでいく中心的な役割を果たすことを、学校には期待します。

 ただ、今の学校には、中退を考える生徒や学生に親身に寄り添ってくれる人や組織が不十分です。中退後、どのような進路を歩めばよいか、といった知恵を授けてくれる学内外の機関も十分ではありません。

 ■自己責任とせず教育保障として

 ――では、どんな仕組みがあればいいですか。

 中退リスクを抱える若者が、社会との接点を失わないようにしなくてはいけません。教員だけでなく地域の支援者が連携して、在学中から多様な関係づくりをしていくべきです。中退した後も、すみやかに支援サービスや教育機会、職業訓練などに有機的につなげることが重要になります。

 アルバイトを転々としたり、ひきこもる状態に陥ったりしている若者に積極的に手を差し伸べ、次のステップに進めるように支える環境が必要です。その仕組みがあれば、たとえ中退したとしても、いつでもやり直しはできるという自信を持つことができます。

 ――ほかに必要なことは。

 中退問題は本人の自己責任だと考える人もいます。しかし、本人だけでは打開できない問題も多いため、子どもや若者の教育保障や生活保障の一環として位置付けるべきです。

 一方、若者は支援の受け手であるだけでなく、自分にとって生きやすい環境づくりの担い手であるべきです。ですから主権者教育も机上の空論ではいけません。つまずいた時にはどうしたらよいか、身を守る力となる知恵や情報を具体的に教える必要があります。(聞き手 編集委員・増谷文生

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 みやもと・みちこ 放送大学千葉大学名誉教授。非正規雇用、生活困窮や社会的孤立などの問題の研究を続ける。国の社会保障審議会や中央教育審議会の委員、子どもの貧困対策に関する検討会の座長なども歴任。著書に「若者が《社会的弱者》に転落する」など。3月には共編著「アンダークラス化する若者たち―生活保障をどう立て直すか」を出版。

 ■17日オンラインシンポ

 宮本氏が委員長を務める「朝日中退予防ネットワーク」は17日、オンラインで設立記念シンポジウムを開く。宮本氏の講演のほか、副委員長を務める山本繁・大正大特命教授による「大学中退の状況と未然防止策の現在地」と題する講演などがある。申し込みは専用サイト(http://t.asahi.com/wjm1別ウインドウで開きます)から。