避難計画に疑問が残る原発の運転は認められない。茨城県にある東海第二原発の運転差し止めを命じる判決を、水戸地裁がおととい言い渡した。かねて指摘されてきた、万一の事態への備えの不十分さを戒める判断である。政府や関係者は重く受け止めるべきだ。

 東日本大震災で被災し、停止している東海第二について、日本原子力発電は安全対策工事を終える予定の来年12月以降の再稼働をめざしていた。判決を不服として控訴したが、再稼働を急ぐことは許されない。

 判決は、原発から30キロ圏内の14自治体の避難計画を検討。9自治体では計画ができておらず、策定済みの5自治体でも、住宅が損壊した際の屋内退避について具体的に触れていない▽道路が寸断された場合の住民への情報提供手段が今後の課題となっている▽自然災害を想定した複数の避難経路が設定されていない、などの問題を指摘。「計画や実行の体制が整えられているというにはほど遠い」と結論づけた。

 東海第二は首都圏にある唯一の商業炉で、30キロ圏内には全国の原発で最も多い94万人が住む。判決も、人口密集地帯ゆえの避難の難しさに言及した。この地での運転継続には無理があると言わざるを得ない。

 ただ、避難計画の不備は東海第二だけの問題ではないことにも留意すべきだ。福井県の若狭湾沿岸部のように原発が集中する地域や、近くの離島や半島の奥など、避難経路や移動手段に不安を抱えるところは多い。

 政府は東京電力福島第一原発の事故後、30キロ圏内の自治体に避難計画づくりを義務づけたが、主体は自治体であり、政府の姿勢は「支援」にとどまる。原子力規制委員会も、避難計画の具体的内容には関与しない。

 今回の判決は、現行の仕組みによる避難計画づくりの限界を浮き彫りにした。政府も責任を負って自治体とともに計画をつくり、その実効性を第三者が検証する。そんな体制を検討する必要がある。

 住民が抱く当然の不安に向き合った水戸地裁判決に対し、愛媛県の四国電力伊方原発3号機の再稼働に道を開いた同日の広島高裁決定には疑問が多い。なかでも、運転を差し止めなければならない具体的な危険があるかどうか、住民側が立証すべきだと判断した点は納得し難い。

 膨大な情報をもつ国や電力会社が危険性がないことをまず立証するというのが、過去の最高裁判例も踏まえて多くの裁判所がとってきた姿勢だ。住民側が「事前差し止めの道を閉ざすに等しい」と強く反発するのは当然で、司法の姿勢が問われる。