(社説)リコール不正 不信深める無責任ぶり

社説

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 愛知県知事に対する解職請求リコール)をめぐり、大量のにせの署名が選管に提出されていたことが明らかになって間もなく1カ月半になる。民意の捏造(ねつぞう)というべき悪質な行為だ。

 ところが、先頭に立って運動を進めた河村たかし名古屋市長らは他人事のような発言を繰り返し、人々の不信を深めている。真相の解明を急ぎ、活動に関わった者それぞれの責任を明確にしなければならない。

 今月、市議会でこの問題を追及された河村氏は「熱心に応援したが(自分は)中心人物ではない」「偽造に気づかなかった。情けない」などと述べた。

 河村氏自身が指示したり承認したりしたとは、さすがに思わない。だが氏は単に街頭で署名を呼びかけただけではない。11年前、自らが主導して名古屋市議会のリコールを実現させた際に署名集めの受任者になった約3万4千人のデータを、今回の運動の事務局に渡すこともしている。当時は「第三者に開示提供しない」と約束していた。

 政治団体は個人情報保護法の適用除外になっているため、直ちに違法とは言えないかもしれない。だが信義にもとる行いではないか。そこまでテコ入れした運動で署名の大量偽造があったとなれば、政治的・道義的責任は免れない。

 何らかの名簿や資料にあった氏名を、アルバイトを使ってリコール署名用紙に書き写させたことが、取材によってわかっている。広告関連会社の幹部は、運動の事務局幹部から人集めを頼まれ、代金を受け取ったといい、発注書もあったとされる。

 あきれるのは、結果としてリコールは成立しなかったため、「実害はない」と言わんばかりの態度をとる関係者がいることだ。考え違いも甚だしい。

 勝手に名前を使われた人の憤りや不安は大きい。

 うその署名の中にはリコールに反対する運動をしていた人物の名もあった。氏名はもちろん住所や生年月日が、どんな経路でリコール事務局側に渡ったのかを心配する声も多い。町内会PTAの名簿の流出を疑い、そうした活動に加わったり名前を出したりするのを控えようという空気も広がる。

 地域の催しなどへの参加意欲をそぎ、さまざまな自主的な取り組みを阻害することにもなりかねない。その意味でも極めて罪深い行いといえる。

 リコール成立に必要な数が集まらなければ選管の審査も実施されず、発覚しないと高をくくっていたのか。違法行為に手を染めてまで見かけ上のリコール賛同者を増やして、何を狙ったのか。市民が知りたいこと、知るべきことは山ほどある。

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