(社説)香港の選挙 理不尽な制度改変だ

社説

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 「愛国」のかけ声のもと、香港の民主主義が壊されていく。香港人の自由と権利を奪う強権の発動を、国際社会は決して容認してはなるまい。

 おととい閉幕した中国の全国人民代表大会で、香港の選挙制度を変える方針が決まった。香港の「一国二制度」をいっそう形骸化させるものだ。

 共産党政権が香港国家安全維持法をつくったのは昨年夏。この法で言論活動などを封じたうえ、今回は選挙のルールを変えることで、民主派を事実上排除しようとしている。

 もとより、香港の行政長官や立法会議員の選挙は、親中派に圧倒的に有利な制度だった。それでも民主派は多くの票を得て一定の議席を占めてきた。

 制度をどう変えるのか不明点はなお多いが、親中派が選ばれやすい選出方式での議員枠を増やす一方、民意が反映されやすい直接選挙で選ぶ議席の割合は減らすという。

 中国の高官が語る理由はこうだ。民主派が選挙により「香港の管轄権」を奪おうとしたり、香港社会の「安定を破壊」したりした。だから「強力な措置」が必要になった――。

 あえて民主派に責めを負わせるための不当な主張というほかない。

 彼らの政治運動は現行の制度に基づく活動である。社会を不安定化させたとすれば、平和的なデモを力で抑え込もうとした当局の側ではないか。先月には民主派の47人が、国家安全維持法違反の罪で起訴された。

 選挙制度の変更は、香港の憲法に当たる基本法との関係でも問題がある。

 基本法は、「普通選挙」の実現を「目標」と明記している。民主派を締め出すような一方的な見直しが、目標に逆行するのは明らかだ。

 習近平(シーチンピン)国家主席は「愛国者による香港統治を堅持する」としている。ここでいう愛国とは、共産党政権に一切異を唱えないことを指すらしい。

 力によって現状の変更をめざし、「法の支配」を軽んじるのは、昨今の国際社会での中国のふるまいにも重なって見える。

 選挙制度は民主主義の主要な基盤だが、世界各地で選挙結果が強引に覆されたり、不正が疑われて民衆が抗議したりする動きが相次いでいる。米国でも、大統領選をめぐる混乱がおきたのは記憶に新しい。

 基本的な人権に冷淡な権威主義の台頭を防ぐためにも、香港の民主派への弾圧を座視するわけにはいかない。

 香港の苦境を他人事とするのではなく、自らのこととして受け止めるべきだ。民主を守る重みを改めてかみしめたい。

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