(社説)イラン核合意 緊張を抑えて再起動を

社説

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 中東に核武装が広まれば、その危険は世界に及ぶ。破局を防ぐために極めて重要な枠組みを早く再起動させるべきだ。

 イランの核開発をめぐる国際合意である。米国の政権交代から1カ月あまり。合意への復帰を探るバイデン政権とイランとの牽制(けんせい)の動きが続いている。

 米側は、復帰の意欲を示しつつも「合意をイランが完全に守る」ことを条件づけている。イランの最高指導者ハメネイ師は「米国がまず完全に制裁を解くべきだ」と譲らない。

 そもそも合意を機能不全に陥らせたのはトランプ前政権だ。米国の都合で一方的に離脱して以降、混迷している。

 欧州連合が先週から仲介に乗り出し、合意の署名国による会合を設けようとしている。その努力を歓迎する。

 バイデン政権は参加する意向だ。米国を信用できないとするハメネイ師は直接対話を受け入れていないが、多国間の協議は禁じていない。ロハニ大統領には決断を期待したい。

 核合意は、米英仏中ロの国連安保理常任理事国ドイツを加えた6カ国と、イランとの間で2015年に結ばれた。イランはウラン濃縮などを大幅に削減し、各国はイランに科していた制裁を大幅に緩めた。

 合意が実施されると、産油国イランの経済は上向いた。国際原子力機関IAEA)の査察により、約束を守っていることは繰り返し確認された。

 それがトランプ氏の独断で覆されたのだから、憤るのも無理はない。だとしても、合意の制限を超える20%のウラン濃縮拡大などで対抗するのは無謀であり、看過できない。

 イランは今月、IAEAの抜き打ち査察を拒否するとも表明した。合意からの「逸脱」を重ねれば、国際社会の理解は得られないと自覚すべきだ。

 バイデン政権は、イランへの敵視姿勢を転換する動きをみせてきた。イランと対立するサウジアラビアへの米国の武器供与をやめ、国連によるイラン制裁の復活宣言も撤回した。

 一方で、米軍は25日、シリアで活動する親イラン武装組織を空爆した。最近の攻撃に対する限定的な報復だとしているが、今後の影響が心配される。

 中東のさらなる不安定化は避けるべきだ。国際社会が長い交渉の末にまとめた核合意の死活的な意義を再確認したい。

 米議会では、共和党保守派などを中心に、合意への強い反対がある。だが、外交を米国内の政争の具にしてはならない。

 バイデン政権は英仏独などと連携し、イランとの対話で信頼醸成に注力すべきだ。それが米国と世界の安全に役立つ。

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