新規感染者の数は減ったが、医療体制に余裕ができたわけではない。変異ウイルスの広がりへの懸念も強い。感染の再拡大を招かぬよう、社会・経済活動を元に戻していくには、細心の注意を払わねばならない。

 新型コロナ対応の緊急事態宣言について、政府が首都圏を除く6府県の先行解除を決めた。3月7日までの期限を1週間前倒しし、今月末に終える。

 警戒レベルがステージ3(感染急増)相当に下がり、地元府県の大半が解除を求めていた。ただ、これから、進学や就職、転勤などで人の移動や会食が増える時期を迎える。不自由な自粛生活が1カ月半続いた人びとの意識が変わり、感染の再拡大を招く恐れは否定できない。万全の備えが必要だ。

 政府は、飲食店の営業時間の短縮やイベントの観客制限について、段階的に緩和する方針だ。「Go To トラベル」の再開は当面見送る。感染防止と経済活動の両立は重要であるが、アクセルとブレーキを踏み間違えては元も子もない。

 再燃の兆しを確実に捉えるには、検査態勢のさらなる拡充が不可欠だ。クラスターが発生しやすい高齢者施設では、職員や入所者に対する定期検査の着実な実施が肝要である。流行の起点になりやすい都市部の繁華街でも、幅広く検査を行いたい。

 宣言が残る首都圏では、感染者数の減少に下げ止まりがみられ、再び増加に転じる可能性も指摘される。期限ぎりぎりまでデータを見極めたうえでの慎重な判断が求められる。

 引き続き国民に理解と協力を呼びかけるうえで、政治指導者の発信は極めて重要である。

 宣言解除へいち早く動いた大阪府では、吉村洋文知事が一時「勇み足」を演じた。今月初め、医療関係者の反対を押し切る形で、国が目安とする基準より緩い内容を含む府独自の基準を打ち出した。しかし、今月上旬にそれを満たしたあとも国への解除申請は見送られ、期待を持たせた飲食店関係者に謝罪した。拙速な政治判断は混乱を招くだけだと、心すべきだ。

 そして、菅首相である。きのうは記者会見を開かず、記者団の質問に立ち話で応じただけだった。長男が勤める「東北新社」から高額接待を受けた山田真貴子内閣広報官が司会を務める会見を避けたとの観測が本当なら、本末転倒も甚だしい。

 首相は首都圏でも7日に宣言が解除できるよう、感染拡大防止策を徹底するよう求めたが、果たして国民の心に届いたであろうか。政権が襟を正し、真摯(しんし)に対応しない限り、国民の命と暮らしを守る政治の責任は果たせない。