(社説)総務官僚接待 首相の政治責任は重い

社説

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 菅首相と関係が深く、首相の長男が勤める会社だったから、官僚が忖度(そんたく)し、特別扱いをしたのではないか。そんな根本的な疑念を放置したまま、官僚の一斉処分で幕引きとすることは決して許されない。

 放送行政を所管する総務省の幹部らが、放送関連会社「東北新社」と会食を繰り返していた問題で、総務省は国家公務員倫理規程が禁じる利害関係者による接待と認め、計11人に減給、戒告などの処分を行った。

 情報流通行政局長だった秋本芳徳氏ら2人は、国会審議への影響を避けるため、処分に先立ち事実上更迭されたが、最高額の計約12万円の接待を受けた谷脇康彦総務審議官らは職にとどまる。業界との癒着が明らかになった幹部がそのままでは、行政への信頼回復は望めない。

 さらに驚くのは、総務審議官時代に1回で7万4千円超の接待を受けていた山田真貴子・内閣広報官の続投を、首相があっさり認めたことだ。山田氏は衆院予算委員会に出席し、「心の緩みがあった」と陳謝したが、国民感覚とかけ離れた高額接待の当事者に、国民との接点に立つ政府広報のトップが務まるのか甚だ疑問である。

 きのうは総務省に続き、農林水産省の幹部職員6人も国家公務員倫理規程違反で処分された。贈収賄事件で在宅起訴された吉川貴盛・元農水相と大手鶏卵生産会社の前代表の会食に同席し、利害関係者である前代表から接待を受けていたためだ。

 倫理規程が形骸化していないか。政府全体として、ルールの順守を徹底する必要がある。

 ただ、両省の事例は、官僚にのみ瑕疵(かし)があるとも言えまい。

 農水官僚は大臣に誘われて出席し、費用は大臣が負担したと認識していたという。総務官僚の場合も、東北新社と首相との近い関係が背景になかったか。

 東北新社の創業者は首相と同じ秋田県出身で、首相は創業者親子から12~18年に計500万円の個人献金を受けている。首相が総務相時代、大臣秘書官に起用した長男は、その後、同社に就職した。総務省の調査では、東北新社以外からの接待は確認されなかったという。首相や長男との関係を慮(おもんぱか)ったとみられても仕方あるまい。

 にもかかわらず、首相は「私の長男が関係し、結果的に国家公務員法違反の行為をさせてしまった」と反省の弁は述べるものの、対応は終始、総務省任せである。山田氏の違反行為も、起用の時点では知らなかったとし、広報官の仕事に「専念してほしい」と述べた。首相が自らの政治責任に向き合う覚悟を示さなければ、総務省の再調査も形だけのものになりかねない。

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