(社説)案里議員有罪 不信の解消はるか遠く

社説

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 私のなかに票を金で買う発想はない――。法廷で開陳したそんな「政治信条」は全くのでまかせであると、裁判所から指弾されたに等しい。

 19年7月の参院選をめぐり、公職選挙法違反(買収)の罪に問われた参院議員の河井案里被告に対し、東京地裁は懲役1年4カ月執行猶予5年の有罪判決を言い渡した。確定すれば議員を失職し、執行猶予の期間中、公民権を停止される。

 買収は、民主政治の土台である選挙を金で左右しようとする極めて悪質な行為だ。その罪で国会議員夫妻がそろって起訴された前代未聞の事件である。

 夫で元法相の克行被告は、選挙前に地元の議員や首長ら100人に計約2900万円を配ったとして別途審理されている。判決は、案里議員は夫と共謀のうえ、このうち4人に160万円を渡したと認定した。

 公判で案里議員側はその年の4月にあった統一地方選を持ち出し、「趣旨は陣中見舞いや当選祝いだった」と主張した。しかし地裁は、相手との関係や授受の状況などを詳細に検討し、有罪の結論を導き出した。

 正当な政治活動だというのなら、金の授受を記録に残し、公開して国民の監視の下に置くのが、政治に携わる者の務めだ。だが夫妻は相手方から領収書も受け取らず、書類を押収されていることを理由に、収支の内容を明らかにしていない。有権者を二重三重に裏切る行いだ。

 責任が問われるのは夫妻だけではない。案里議員は当時の安倍首相菅官房長官の肝いりで擁立され、自民党本部は同じ広島選挙区で落選した現職の10倍といわれる1億5千万円もの活動資金を交付した。

 買収の原資になったのではないかとの疑惑が出ているが、党は納得できる説明をせず、「総裁になったら責任をもって対応していきたい」と話していた菅氏もほおかむりを決め込む。都合の悪いことはうやむやにする体質は前政権そのままだ。

 買収された議員らの大方が職にとどまり、裁判に支障が及ぶなどとして口をつぐんでいることも、政治不信を深めている。一方、議員らの刑事処分を決めないまま公判を進める検察にも疑念の目が向けられる。

 公選法には、当選無効につながる選挙犯罪は、起訴から100日以内に判決を出すという努力義務規定がある。すでにその期間を過ぎているが、克行議員への判決はさらに遅れて春以降になると見込まれる。

 公正な裁判を受ける権利はむろん保障されねばならないが、迅速な審理もまた、国民の要請だ。関係者はその両立に向けて力を尽くさねばならない。

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