(社説)変異ウイルス 流行を想定して備えよ

社説

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 変異した新型コロナウイルスが英国をはじめ各地で猛威をふるう。日本でも、空港検疫などで陽性と判定された感染者から20例以上を検出。さらに南アフリカで確認されたものや別の変異ウイルスも見つかっている。

 英国の変異ウイルスは従来型よりも伝播(でんぱ)しやすいとされ、1人が何人に感染させるかを示す「再生産数」を0・4以上押し上げる可能性があるという。

 開発されたばかりのワクチンの有効性への影響や、病気を発症・悪化させる程度など、よくわかっていないことが多い。南アフリカの変異ウイルスに関しても、感染力が強まった恐れが指摘されているものの、詳細はまだ不明だ。

 政府は昨秋以降、海外との往来の再開を進めてきた。だがこの事態を受け、感染状況が落ち着いている11の国・地域のビジネス関係者を除いて、外国人の入国を一時停止するなどの措置をとり、日本人についても検疫を強化することにした。

 水際対策の徹底はむろん重要だが、限界があると心得るべきだ。変異ウイルスがすでに国内に入り込んでいる可能性は否定できない。流行に備えた準備を急がなければならない。

 2度目の緊急事態宣言が発出され、いま日本は「第3波」の流行のまっただ中にある。そんな状況で新たなウイルスが広がれば、事態をさらに深刻化させかねない。リアルタイムでの監視と情報収集の態勢を強化し、感染力や病原性など科学的な知見に基づいて、リスク評価を進めることが欠かせない。

 監視の中心となる国立感染症研究所と都道府県などの衛生研究所では、各地で検出されたウイルスのゲノム解析をしており、先月末までの1年弱で約1万4千株を調べた。空港検疫で陽性と判定された感染者のウイルスは、原則としてすべて解析の対象としている。

 それでも国内の感染者全体からすれば、分析できたのは1割に届かない。大学や他の研究機関と協力して取り組みを強化するとともに、変異ウイルスの研究に力を入れるべきだ。

 都市部を中心に、民間の検査会社が取り扱う検体も増えている。これらは国の監視網から抜け落ちがちであり、早急な改善が求められる。

 英国では飲食店の営業や人々の移動を制限したにもかかわらず、拡大に歯止めがかからず、さらに不要不急の外出禁止などの強い対策を講じている。

 国内の医療の逼迫(ひっぱく)状況は限界に近いとの声が上がっている。感染の拡大防止とあわせ、最悪の事態も視野に、病床計画の見直しや人材確保策にいっそう力を入れる必要がある。

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